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百物語 第七十八話
目玉だらけ
東京都の民話
むかしむかし、江戸のある町に多吉(たきち)という、若いたたみ職人がいました。
多吉は大変な働き者で、朝早く家を出て夜おそくまで、親方のところでいっしょうけんめいたたみをつくっていました。
ある日の事、夜ふけ近くまで働いた多吉は、親方のところでお酒をふるまわれて、ほろよいきげんで長屋(ながや→今で言う、アパート)へかえっていきました。
♪春じゃ、春
♪月もおぼろの
♪なんとやら
多吉はいい気分でうたいながら、町はずれの橋のところまで歩いてきました。
すると橋のたもとのやなぎの木の下に、子どもをだいた女の人がジッと川を見つめて立っていました。
(おおっ、こいつはいい女じゃ。しかしいまごろ、こんなところでなにをしているんだ? ・・・おい、まさか、身なげしようというんではあるまいな)
足をとめてのぞきこむと、女の人はふりむいて多吉に声をかけてきました。
「すみません。ちょっと、お手をかしていただけませんか。子どものたびがぬげそうなので、なおしていただきたいのです」
顔も美しければ、声も美しい、ほれぼれとするような若い女の人です。
「それぐらい、おやすいご用です。ほほう、かわいいお子さんだ」
子どもの顔はお酒をのんだようにまっ赤で、目もつりあがり、みけんに三本のたてじわがあります。
正直に言うと、ちっともかわいくないのですが、多吉はおせじをいって子どものたびをなおそうとしました。
そしてきもののすそをまくりあげると、なんと子どもの足は毛むくじゃらで、毛のなかにはカエルのタマゴみたいな小さな目玉が、うじゃうじゃとあったのです。
そしてその目玉が、一度に多吉の事をにらみました。
「うぎゃー! でたぁー!」
多吉はビックリしてのけぞると、わき目もふらずに逃げ出しました。
橋をわたってダンゴ屋のかどをまがり、地蔵さんの前を走りぬけて、やっとお寺の前まできて、
「ふうーっ」
と、大きなため息をつきました。
ちょうどお寺の前に知りあいの和尚(おしょう)さんがたっていたので、多吉は今見たバケモノの話しをしました。
「ああっ、和尚さんがいて助かりました。実はいま、あそこの橋のたもとのやなぎの木の下で、目玉ばかりのバケモノにであったのです」
多吉の話しをきいていた和尚さんは、カラカラと笑いながら、
「それは大変じゃったな。して、そのバケモノはこんなバケモノじゃ、なかったですかな?」
そういっていきなり、ころものすそをまくりあげました。
和尚さんの毛むくじゃらの足とおしりは、小さな目玉だらけだったのです。
その目玉が多吉の顔をみて、ニヤリと笑い出しました。
「うーん!」
あまりの事に、多吉はうなり声をあげると、そのまま後ろにひっくりかえって気絶してしまったという事です。
おしまい
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