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日本のふしぎ話 第21話
嫁さんになったイチョウの木の精
宮城県の民話
むかしむかし、ある村に、若い木こりがお母さんと一緒に住んでいました。
ある日の事、今まで行ったことのない山へ行き、道にまよってしまいました。
どうしようと思いながら歩いていると、遠くのほうに家のあかりが見えました。
木こりが大喜びしてあかりのほうへ近づいて行くと、山の中とは思えないほどりっぱな家がたっていて、中から美しい娘さんが出てきました。
「帰り道がわからなくてこまっています。今夜一晩とめてください」
木こりがたのむと、娘さんは、
「なんのおかまいもできませんが、どうぞえんりょなくとまっていってください」
と、言いました。
娘さんはおやじさんと二人で住んでいて、二人とも木こりをしんせつにもてなしてくれました。
見れば見るほどきれいな娘さんで、木こりはこの娘さんがすっかり気に入ってしまいました。
そこで思いきって、おやじさんにたのんでみました。
「どうか娘さんを、おらの嫁にください」
するとおやじさんも、木こりが気に入り、
「大事にしてくれるなら、娘をあげよう」
と、言ってくれたのです。
木こりはとびあがって喜び、次の日、娘さんをつれて家に帰っていきました。
嫁になった娘さんは、気だてがよくて、大変な働き者でした。
木こりもお母さんもうれしくて、毎日が夢のようにすぎていきました。
でもどういうわけか、娘さんの体はいつもつめたくて、まるで木にふれているみたいです。
ある年の事、碁(ご)の好きな殿さまが、碁盤(ごばん)をつくることになり、
《見事なイチョウの碁盤をつくったものには、ほうびをつかわす》
と、いうおふれを出しました。
それを聞いた木こりたちは、いっしようけんめいイチョウの木をさがしました。
でも碁盤にできそうな木は、なかなか見つかりません。
ところがこの若い木こりは、娘さんの住んでいた山の中で大きなイチョウの木を見つけました。
木こりはよろこんで、そのことを嫁さんに話しました。
すると嫁さんは、青くなり、
「あのイチョウの木を切るなんてとんでもない! ほうびはほしくないから、やめてください!」
と、言いました。
それでも木こりはほうびがほしくて、その夜、嫁さんの止めるのも聞かずに飛び出して行きました。
「よしよし、これほど見事な木なら、すごい碁盤ができるぞ」
木こりはさっそく、木を切りはじめました。
一晩かかって、やっと切り倒すと、その木を運びだすため家に戻ってきました。
ところがどうしたのか、嫁さんの姿がありません。
目をまっ赤になきはらしたお母さんが、ふとんの前でボンヤリとすわっています。
「どうした? おっかさん」
するとお母さんは、なみだを流して言いました。
「お前が出かけてから、嫁がひどく苦しみだしてな。ふとんに寝かせてせなかをさすってやったが、みるみる細くなって、とうとう消えてしまったんじゃ」
「・・・もしや」
木こりも、ないてくやしがりました。
嫁さんは、イチョウの木の精だったのです。
おしまい
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