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百物語 第八十八話

いきをふきかける亡者

いきをふきかける亡者
青森県の民話

 むかしむかし、陸奥の国(むつのくに→青森県)の真行寺(しんぎょうじ)に、まだ修行中の若い僧がいました。
 ある冬の日のこと、夜おそくまで一人で勉強していると、部屋のしょうじに人のようなかげがうつりました。
(はて、こんな夜中に何者だろう?)
 僧は、しょうじのすきまに目をあてました。
 するとそこには、まるでゆうれいのような女が、髪をふりみだしてたっていました。
 手をだらりと前にさげ、青白い顔がうらみをこめたようにひきつっています。
(これが、亡者(もうじゃ)というものだろうか?)
 わかい僧は顔をこわくなり、頭からふとんをかぶりました。
 ヒューゥ、ヒューゥ。
 なんだかすきま風のような音がするので、ふとんの中からこっそり顔を出してみると、あの女がしょうじのやぶれたところに口をつけて、部屋の中に息をふきこんでいるのです。
 その息は雪のようにつめたく、部屋の中はどんどん冷えていきます。
 若い僧は、一心(いっしん)にお経(きょう)をとなえました。
 すると女はあきらめたのか、息をふきこむのをやめて部屋の前をはなれていきました。
(ああ、こわかった)
 若い僧はホッとしてふとんからはいだすと、そっとしょうじを開けてみました。
 すでに女のすがたはなく、台所の方から火の明りがもれています。
(おや? まだだれかおきているようだ。ちょうどいい、少しあたたまらせてもらおう)
 若い僧は手をこすりながら、台所の方へいきました。
 ところが、かまどに火がもえているのにだれもいません。
(おかしいな)
と、思いながらも、かまどの火に手をかざそうとしたら、目の前にさっきの女がいて、ニヤリとわらいかけたのです。
 若い僧は、
「あっ!」
と、さけんだきり、気を失ってしまいました。
 やがて夜が明けて、朝食係りの僧たちが、かまどの前でたおれている若い僧を見つけました。
「おい、どうした? しっかりしろ!」
 やっと気がついた若い僧は、昨日の事をみんなに話した後、十日間も寝込んでしまったという事です。

おしまい

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