|
|
日本の悲しい話 第14話
寿限無(長い名前の子ども)
長崎県の民話
むかしむかし、あるところに、なかなか子どもがうまれない夫婦がいました。
でもようやく、かわいらしい男の子がうまれたのです。
お父さんとお母さんは、大喜びです。
「よし、この子にはえらいお坊さんに頼んで、元気で長生きできる、立派な名前を付けてもらおう」
お父さんはさっそくお寺に行くと、お坊さんに頼みました。
「うむ、引き受けよう。元気で長生きできる、立派な名前か。そうじゃなあ・・・」
お坊さんは一生懸命考えて、ありがたい意味や長生きした人の名前をくっつけて、大変長い名前を男の子につけてくれました。
それは、こんな名前です。
『寿限無(じゅげむ)寿限無(じゅげむ)、五劫(ごこう)のすりきれ、海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)の水行末(すいぎょうまつ)、雲来末(うんらいまつ)、風来末(ふうらいまつ)、食(く)う寝(ね)るところに住(す)むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命(ちょうきゅうめい)の長助(ちょうすけ)』
さて、ある日の事です。
その長い名前の子どもが、川へ落ちたから大変です。
お母さんがあわてて、みんなを呼びにいきました。
「みんな助けておくれ!『寿限無(じゅげむ)寿限無(じゅげむ)、五劫(ごこう)のすりきれ、海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)の水行末(すいぎょうまつ)、雲来末(うんらいまつ)、風来末(ふうらいまつ)、食(く)う寝(ね)るところに住(す)むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命(ちょうきゅうめい)の長助(ちょうすけ)』が、川へ落ちたんだよ!」
やっと名前を言い終わったときには、子どもは川下の方へ流されてしまい、おぼれ死んでしまいました。
ところがある日、別の子どもが川へ落ちました。
この子どもは『ちょい』というだけの、短い名前でした。
「みんな助けておくれ! ちょいが川へ落ちたんだよ!」
お母さんのさけび声を聞いて、畑にいる人が川に飛び込んで、すぐに子どもを助けてくれました。
そんなことがあってから、この地方では、どのお母さんも生まれた子どもには、できるだけ短い名前をつけるようになったという事です。
※寿限無・・・以下略の名前の意味。
「寿限無(じゅげむ)」とは、
寿命に限りがなく、永遠に死なないという意味です。
「五劫(ごこう)のすりきれ」とは、
三千年に一度、神さまの使いが天から降りてきて、地上の岩を衣でなでるのですが、その作業がすべて終わるまでの時間を一劫といい、それが五劫あるので、何万年もの時間という意味です。
「海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)」とは、
海の砂利(じゃり)も、水にすむ魚も、とうてい取りつくすことができないため、それだけ数が多いという意味です。
「水行末(すいぎょうまつ)、雲来末(うんらいまつ)、風来末(ふうらいまつ)」とは、
水の行く末、雲の行く末、風の行く末には、いずれも果てがなく、広大だという意味です。
「食う寝るところに住むところ」とは、
衣食住を表わし、それらの全てに不自由しないようにとの、願いを込めた言葉です。
「やぶらこうじのぶらこうじ」とは、
大変丈夫でおめでたい木の名前で、春は若葉をしげらせ、夏は花を咲かせ、秋は実を実らせ、冬は霜(しも)をふせぐと言われています。
「パイポパイポ・・・以下略」とは、
むかし、中国にはパイポという国があって、シューリンガンという王さまとグーリンダイという王后のあいだに生まれたのが、ポンポコピーとポンポコナーという二人のお姫さまで、この二人が大変長生きをしたので、それにあやかっての言葉です。
「久命(ちょうきゅうめい)の長助(ちょうすけ)」とは、
天長地久(てんちょうちきゅう)という言葉があり、天地が永久にかわらないように物事がいつまでもつづくと言う意味で、長久命は、それだけ命が長く続くという願いを込めて、そして最後の長助は、長く助かる、つまり、長生きできるという意味です。
おしまい
|
|
|