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百物語 第九十一話

おばけどうろう

おばけどうろう
栃木県の民話

 日光(にっこう→栃木県)の二荒山神社(ふたらさんじんじゃ)に、高さ六尺(ろくしゃく→約百八十センチメートル)ほどの唐金(からかね→青銅の事)のとうろうがあります。
 このとうろうは、むかし、この近くの鹿沼(かぬま)にすんでいた鹿沼権三郎入道教阿(かぬまごんざぶろうにゅうどうきょうあ)という人が寄進(きしん→社寺などに金品を寄付すること)したもので、おばけどうろうと言われて、今でもおびただしいきずがついているそうです。
 このとうろうが寄進されたころ、二荒山神社は新宮権現(しんぐうごんげん)と呼ばれて、本殿(ほんでん)の前にはたくさんのとうろうがならんでいて、夜になるといっせいに明りがつけられました。
 ところがどういうわけか、教阿(きょうあ)のとうろうだけは、明りをつけるとたちまち燃えるようにかがやきだし、あっというまに消えてしまうのです。
「油がたりないのではないのか?」
と、考え、油ざらを大きな物にとりかえて、たっぷりと油をそそいでおいても、油はまたたくまになくなってしまいます。
 そんなことがうわさになって、このとうろうをおばけどうろうとよぶようになりました。
 ありがたいはずの神社におばけどうろうがあるなんてみっともないと、僧たちはおばけどうろうをくわしく調べてみましたが、べつにあやしいところはありません。
「これはきっと、とうろうに、何かがのりうつっているのだろう」
「それなら、その何かが出て行くよう、とうろうに切りかかるよりしかたがないな」
 そこで剣の腕のたつ僧たちがえらばれ、次の晩から、とうろうに切りかかることにしました。
 一番はじめにえらばれたのは、もとさむらいの僧で、むかしは剣道の指南役(しなんやく)をしていました。
 その僧は夜になると、とうろうのうしろの大きな木にかくれて、とうろうに明りがつけられるのをジッと待っていました。
 次々ととうろうに明りがともり、おばけどうろうにも明りがつけられました。
 明りはたちまちもえるようにかがやき、あたりが昼間のように明るくなりました。
「いまだ!」
 僧は刀をぬくと、おぼけどうろうに走りより、
「えいっ!」
と、切りつけました。
 ガチーン!
 火花が飛び散って、とうろうの明りがスーッと消えました。
 すぐにとうろうを調べてみましたが、僧の切りつけた刀きずがついているだけで、特にかわったところはありません。
 それでも次の晩から、明りの燃えつきる時間が少し長くなったような気がします。
 そこで腕のたつ僧たちは、毎晩、刀でおばけどうろうにきりかかりました。
 唐金のとうろうに切りつけるのですから、刀はボロボロになり、どんな名刀も二度とつかえなくなってしまいます。
 それでも僧たちは、毎晩のようにとうろう切りを続けました。
 おばけどうろうはすっかりきずだらけになりましたが、そのおかげで、明りのともっている時間がだんだん長くなっていきます。
 やがておばけどうろうが刀きずでいっぱいになったころ、ついに油もなくならなければ明りもきえず、ほかのとうろうと同じようになったという事です。

おしまい

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