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日本のふしぎ話 第30話
湖山長者
鳥取県の民話
むかしむかし、因幡の国(いなばくに→鳥取県)に湖山長者という、とても欲の深い長者がいました。
長者の田んぼは大変広かったのですが、家のしきたりで、その田んぼを一日で植えなければならないのです。
だから田植えの日には夜も明けないうちから、数え切れないほどの早乙女(さおとめ→田んぼを植える女の人)たちがずらりと並んで、いっせいに田植えをはじめるのです。
ある年の田植えの日の事。
一匹のサルが子サルをさかさまに背負いながら、山から下りて来ました。
それを見つけた早乙女たちが、
「あれ、サルが赤ん坊をさかさにしてるよ」
「本当だ。今にも落っこちそう」
「あれ、落ちた」
「でも、落ちたのに笑っているよ。可愛いいなあ」
と、口々にはやしたてます。
すると、ほかの場所で田植えをしていた早乙女たちも、
「何? 何?」
と、田植えの手を休めて、サルを見ようとしました。
これに気がついた湖山長者は、
「こら! 何をしている! 手を休めるな!」
と、大声でどなりました。
ビックリした早乙女たちはあわてて田植えをはじめましたが、サルに見とれていたため、その日の日暮れになっても田植えが終わりそうになかったのです。
家のしきたりを守ろうと、長者はしきりに早乙女をせかしましたが、どうしても日の暮れるまでに終わらない事がわかると、
「ようし、こうなればお天道(てんと)さんに戻ってもらうより方法がないわい。なあに、この湖山長者に出来ん事などない」
と、長者は金の扇(おおぎ)を開くと、お天道さんを扇であおぎ返しました。
すると、どうでしょう。
ふしぎな事に西の山に沈もうとしていたお天道さんが、扇の風に押されるようにもう一度天に戻ったではありませんか。
「それ、今の間に苗(なえ)を植えろ!」
長者が叫ぶと、早乙女たちは急いで田植えを再開しました。
そしてようやく田植えが終わったとき、それに合わせるようにお天道さまが沈んだのです。
さて、この話しは遠くの国まで伝わったので、
「入り日も招き返す勢いとは、この事だ。わはははははは」
と、長者は上機嫌です。
ですが次の朝、長者は目を覚ますと田植えが終わったばかりの田んぼが、一面水びたしではありませんか。
そしてその水はどんどん広がり、長者の屋敷も水の中に沈んでしまいました。
それから人々は、その時に出来た湖を『湖山池』と呼ぶようになったという事です。
おしまい
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