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日本の恋物語 第2話

身投げ石

身投げ石
大分県の民話

 むかしむかし、豊後の国(ぶんごのくに→大分県)に、岡の殿(おかのとの)という豪族(ごうぞく)が住んでいました。
 岡の殿には大変美しい姫がいましたが、姫は重い病にかかってしまったのです。
「姫が不憫(ふびん→かわいそう)でならぬ、何としてもなおせ」
 岡の殿は家来たちに命令しましたが、しかし、どんな薬をあたえても、姫の病気には効かないのです。
 姫の病気は、日に日に悪くなるばかりでした。
 そんな、ある日の事。
 どこからか一人のお坊さんがやって来て、岡の殿に言いました。
「不治(ふじ)の病には 黒い花の咲(さ)くユリの根を煎(せん)じて飲ますとよいと、聞きおよびます。しかし、そのようなユリの花がどこにあるのやら」
 岡の殿は、あちこちにおふれを出しました。
《黒い花の咲くユリの花を探し出した者には、姫を嫁にとらす。一刻(いっこく)も早く探し出せ》
 それを読んだ人々は、山も川も海も、草の根を分けるようにして探しましたが、けれども、黒い花の咲くユリを見つけることは出来ませんでした。
「ええい、どこを探しておる。もっとよく探せ!」
 しかし、やっぱりどこにも見つかりません。
 屋敷の人々があきらめかけたとき、岡の殿がかわいがっていた栗毛(くりげ)のウマが、激しくいなないて屋敷にかけ込んできたのです。
 そのウマの口には、なんと黒いユリの花が一本くわえられています。
 岡の殿は夢中で栗毛にまたがると、栗毛は矢のようにかけ出しました。
 そしていくつもの山をこえた栗毛は、やがて深い谷で止まりました。
 そこの岩間には、黒いユリの花が何本も咲いていたのです。
 それからほどなくして、ユリの根を煎じて飲んだ姫は、元気になっていきました。
 さて、黒い花の咲くユリを見つけてきた物には、姫を嫁にやるという約束でしたが、相手がウマではどうしようもありません。
 ところが、あの栗毛はその約束を知っているのか、いつも姫に寄りそっていて、姫の側を離れようとしないのです。
 岡の殿も姫も気味悪くなり、栗毛をウマ小屋に閉じ込めてしまいました。
 しばらくたち、姫は病気全快のお礼参りに、八幡宮(はちまんぐう→八幡神を祭神とする神社の総称)へ詣(もう)でました。
 ところが、カゴにのって帰る途中、ウマ小屋から逃げだした栗毛が、狂ったように姫の行列めがけて走ってきたのです。
「あっ、あぶない!」
「姫のお身を守れ!」
 お供の者たちが姫を守ろうとしましたが、栗毛はお供の者たちを蹴散(けち)らすと、とうとう姫を、川に突き出た大きな岩の上に追いつめてしまったのです。
 岩の下では川の濁流(だくりゅう)が、ゴウゴウ音をたてて流れています。
 栗毛の目は怒りに燃えており、姫に一歩一歩近づいていきます。
「いやじゃあ!」
 姫は叫び声をあげましたが、栗毛は姫を道連れに、川へ身を投げたのです。
 いつのころからか、身投げ石と呼ばれるようになったその大岩は、栗毛のひづめのあとを今も残しているという事です。

おしまい

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