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9月5日の日本民話

テングの面と娘さん

テングの面と娘さん
和歌山県の民話

 むかしむかし、ある村にお母さんと娘さんが住んでいました。
 娘さんは一人前になったので、町のお金持ちの家で働くことになりました。
「お母さん、どうかたっしゃでいてください」
 親孝行(おやこうこう)な娘さんは、お母さんの似顔絵(にがおえ)とカガミを持って出かけました。
 娘さんはお母さんが恋しくなると、カガミのよこにおいてある、お母さんの似顔絵を見て話しかけます。
「お母さん、今日もいっしょうけんめい働きました。お金がたまったら、きっと帰りますからね」
 お屋敷にいる男たちは、この働き者でかわいい娘さんが気に入りました。
 でも、いくら話しかけてもお母さんの事ばかりで、自分たちの事を好きになってくれません。
「よし、それなら、おっかさんの事をわすれさせてやろう」
 ある日、男の一人がお母さんの似顔絵を取りあげて、そのかわりにテングの面をおいておきました。
 そんな事とは知らない娘さんは、テングの面を見てビックリ。
「にっ、似顔絵がテングの面にかわるなんて。もしかして、お母さんが病気になったのかもしれない!」
 そう思うと、もうジッとしていられません。
 娘さんは、お屋敷のだんなさんにたのんで休みをもらうと、テングの面を持ってお母さんのところへ帰っていきました。
 ところが帰る途中、山の中で山賊(さんぞく)たちにつかまってしまいました。
「わしらは今夜、町に仕事へ出かける。もどってくるまでに火をおこしておけ。もし逃げたりしたら、ひっつかまえて殺してやるからな」
 山賊の親分が、言いました。
 娘さんはしかたなく、山賊のいうとおりにしました。
 山賊の出かけた後、木をひろい集めて火をおこすことにしました。
 でも、山の木はしめっていて、なかなか燃えません。
 けむりばかりでけむくてたまらないので、娘さんは、テングの面をかぶって火をつけました。
 やっと火がついたので、今度は山賊たちのおいていったたいまつに火をうつしました。
「ああ、早く帰りたい。お母さんどうしているかな?」
 たいまつにあたりながら娘さんがお母さんのことを思っていると、ま夜中になって、小判や宝物をかついだ山賊たちがもどってきました。
 すると、どうでしょう。
 おそろしいテングが、たいまつのまわりをうろうろしているのです。
 明かりにてらされたテングの顔が、山賊たちをにらみつけました。
「お、おっ、親分、て、てっ、テングが・・・」
 子分に言われて、親分も青くなりました。
 いくら山賊でも、テングは怖いのです。
「にげろ!」
 山賊たちは、まるで転がるようにして山をおりていきました。
 その騒ぎにビックリした娘さんが面を取ってみると、そこには山賊たちがおいていった小判や宝物が山のようにつまれています。
「まあ、うれしい」
 娘さんはその小判や宝物をひろって、家に帰っていきました。
 そしてその小判や宝物のおかげで、娘さんとお母さんは、いつまでも幸せにくらしたという事です。

おしまい

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