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百物語 第九十九話
おばばが消えた
滋賀県の民話
むかしむかし、琵琶湖(びわこ)のほとりの家に、もう七十歳をこえているのに、家族も近所の人たちもおどろくほど元気なおばあさんがいました。
ある寒い日の夕方、これまで病気一つしたことがなかったのに、このおばあさんはいろりの前にすわっていて、そのまま死んでしまったのです。
家の人たちも、近所の人たちもビックリ。
けれど、とにかくお葬式(そうしき)の準備を始めなければなりません。
お葬式の準備がひとだんらくついたとき、奥の部屋に安置(あんち)してある棺(ひつぎ)が、メリメリと音をたてて畳(たたみ)の上にころがりました。
そして死んでいるはずのおばあさんが、白い衣のまま立ちあがると、あたりをにらみまわしたのです。
「ばっ、ば、ば、ば・・・」
家の中にいた人たちは、言葉にならない声をあげながら、おそろしさのあまりブルブルとふるえていました。
その中に母の急死をきいて、お坊さんになっていた息子がいたのです。
その息子もビックリしましたが、すぐに大きな声でお経をとなえはじめると、おばあさんはそのまま棺の中へたおれて、また動かなくなりました。
さて、次の日の夕方の事です。
おばあさんの棺をかついでお寺にむかうとちゅうで、きゅうに雨がふりだしてきました。
雨は大雨になり、頭の上でカミナリがとどろきはじめました。
お寺まではもうすぐなので、お葬式の行列はそのまま進んでいきました。
幸いなことに、まもなく雨はやみましたが、棺がきゅうに軽くなったのです。
「なんだなんだ? 棺がきゅうに軽くなったぞ。おい、ちょっとのぞいてみよう」
足を止めて棺の中をのぞいてみると、中は空っぽで、おばあさんは消えていました。
「そういえば、さっき空から黒い雲がおりてきて、おばばの棺のまわりをとりかこんで稲光がはげしく走った。おばばはあのとき、天へ持っていかれたんだ」
と、だれかがいいました。
棺をかついでいた人たちも、たしかにそのときから軽くなったと言っていたという事です。
おしまい
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