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百物語 第四十一話
右源太とばけネコ
熊本県の民話
むかしむかし、根子岳(ねこだけ→熊本県の阿蘇市)のふもとの村に、右源太(うげんた)という鉄砲(てっぽう)の上手な男がいました。
右源太はこれまで九百九十九頭のイノシシをいとめていて、今度いとめれば千頭です。
ある年の冬の寒い夜、村はずれの野でたき火をしながら獲物(えもの)をまっていると、やみの中から目も口も鼻もない、のっぺらぼうのバケモノがやってきて、たき火にあたりはじめました。
(こいつは、へんなものがやってきよったな)
右源太が目を合わさないように下をむいていると、のっぺらぼうが右源太を下からのぞき込み、
「右源太よ、おめえは声がでかいときくが、今日はおめえと、さけびくらべをしたいと思ってな」
のっぺらぼうですから、どこに口があるのかわかりませんが、つるつるの顔をしわくちゃにしながら言ったのです。
逆らうと、何をされるかわかりません。
右源太は、しぶしぶ承知(しょうち)しました。
まずバケモノが、根子岳のほうをむいてさけびました。
「ウォオオオオオオオーー!!」
その声の大きさに、山のてっぺんの岩がガラガラとくずれおちたほどです。
「ほれ。今度はおめえの番じゃ。やってみろ」
このままでは、負けは決まっています。
右源太は、ちょっと考えてから、
「おれは、このつつからさけぶからな」
と、いうと、玉がこめてある鉄砲をバケモノにむけました。
「なんじゃ、これは?」
バケモノが鉄砲の先に顔を近づけたとき、右源太は鉄砲の引き金をひきました。
ズドーン!
ものすごい音がして、ビックリしたバケモノはどこかへすっとんでしまいました。
夜が明けてから、バケモノはどこへいったのだろうとさがしにいくと、根子岳の岩の下で手ぬぐいをかぶったおばあさんが、横になっているおじいさんと話しをしていました。
「おばあよ、洗濯ばあさんに化けて、あいつをかみ殺してくれ。おらはもう命はねえ」
横になっているおじいさんがいうと、おばあさんは、
「わかった、わかった。約束する。きっとかたきはとってやる」
と、こたえていました。
それを聞いた右源太は、二人に見つからないように、そっと家へ帰ってきました。
さてしばらくすると、一人のおばあさんが右源太の家にやってきました。
そして、
「洗濯物があったら、おらに洗わしてくれろ」
と、いうのです。
(ははん。さっそくきやがったな)
おばあさんの正体に気づいた右源太は、
「ああ、それは助かる。たくさんあるから洗ってくれろ。だがな、うちはむかしから、三べん戸口をいったりきたりしなけりゃ、家の中に人を入れんことにしておるんじゃ」
それを聞いたおばあさんは、戸口の前を行ったり来たりしました。
そのあいだに右源太はおばあさんにねらいをさだめて、鉄砲の引き金をひきました。
ズドーン!
するととたんにあたりがまっ暗になり、おばあさんの姿はどこかへ消えてしまいました。
右源太が根子岳の岩の下へいってみると、岩穴の中で大きなネコが二匹、頭をならべて死んでいたのです。
この二匹はむかしから根子岳にすんでいた化けネコで、今までに何人もの人が殺されていたのです。
根子岳はこのときから、猫岳になったという事です。
おしまい
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