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日本の悲しい話 第28話
とけてしまった雪ん子
青森県の民話
むかしむかし、ある雪国に、おじいさんとおばあさんがいました。
二人には子どもがいなかったので、お宮さんにおまいりして、
「なんとか、わしらにも子どもをさずけてください」
と、お願いしたのです。
すると、二人の夢の中に神さまが現れて言いました。
「そなたたちの願いを聞き入れよう。女の子をさずけるから、雪で人形をつくるがよい」
次の朝、おじいさんとおばあさんは大喜びで庭へ出ると、さっそく雪で人形をつくりました。
頭はおかっぱ(→前髪を切り下げ、後髪をえり元で切りそろえた、少女向きの髪型)で、目がクリクリと大きな、とてもかわいい人形です。
「よし、かわいい人形が出来た。こんな娘が、本当にいてくれたらなあ」
「そうですね。雪人形でなく、本当の娘だったら」
二人が雪人形をながめていると、人形がスーッと消えて、そのかわりに雪人形そっくりの、かわいい女の子が現れたのです。
女の子は二人を見て、ニッコリとわらいました。
「おおっ、本当の女の子だ。神さまが願いをかなえてくれたんじゃ」
「ありがたい、ありがたい」
おじいさんとおばあさんは女の子をだきかかえるようにして、家につれていきました。
見れば見るほどかわいく、それに心のやさしい女の子で、おじいさんとおばあさんを、
「お父さん、お母さん」
と、よんでくれるのです。
二人はこの女の子に雪ん子という名前をつけて、それはそれは大切に育てました。
ところがどういうわけか、女の子はあたたかいのが大嫌いで、おじいさんやおばあさんがいろり(→地方の民家などで、床ゆかを四角に切り抜いてつくった暖房のためのもの)にあたれと言っても、
「おら、寒いところがええ。暑いところはいやじゃ」
と、言うのです。
それにごはんもみそしるも、冷たくなってからでないと食べません。
それでも、雪ん子はかぜ一つひかないので、二人は、
「ほんに雪ん子は、名前のように元気な子じゃのう」
と、言って、あきれるやら感心するやら。
ところがある時、近所の子どもたちが一緒に遊ぼうと、雪ん子をさそいにきました。
雪ん子は、遊びに行くのを嫌がりましたが、
「雪ん子や、家にばかりいないで、たまにはみんなと遊んでおいで」
と、おばあさんに言われて、しかたなく出かけました。
さて、近所の子どもたちは、雪ん子をたき火のそばへつれていきました。
あたたかいのが大嫌いな雪ん子を、みんなでからかってやろうというのです。
「雪ん子、火にあたれ」
「そうだ。もっと火のそばへ行け」
子どもたちは嫌がる雪ん子をつかんで、たき火のそばへおしつけました。
「いや! あついのはいや!」
嫌がる雪ん子の体から、氷のように冷たい汗が流れました。
そのとたん、ジューッという音がして、雪ん子は消えてしまいました。
「あっ、雪ん子がいなくなった」
子どもたちはビックリして、たき火を見つめましたが、小さくなったたき火の上に、白い湯気(ゆげ)がけむりのように立ちのぼっているだけです。
かわいそうに、雪から生まれた雪ん子は、火にとけてしまったのです。
おしまい
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