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日本の感動話 第9話
米問屋のお礼
宮崎県の民話
むかしむかし、ある海辺に、おじいさんとおばあさんと息子と嫁とが暮らしていました。
おじいさんと息子は沖に出て魚をとり、おばあさんと嫁は機(はた)を織(お)る毎日でした。
ある日の事、おじいさんと息子が沖へ漁に出ていると、急に空模様(そらもよう)があやしくなってきました。
「こりゃ、大雨になるぞ」
「お父っつぁん、あの島へ行こう」
二人は大いそぎで、近くの島へ逃げました。
だんだん雨風が強まるなか、やっと舟をおかに押し上げて、洞穴(ほらあな)にこもり、大荒れに荒れる海を見ながら、二人はジッと夜を明かしました。
次の朝、大雨がやんだので、二人は舟を出して魚とりをはじめました。
アミを海に入れると、とても重い手ごたえがあります。
二人がなんとかアミを引き上げてみると、アミの中には二十五、六歳の立派(りっぱ)な着物を着た男がかかっていたのです。
「お父っつぁん、こりゃあ」
「うむ、ゆうべの大雨に流されてきたお人じゃろう。かわいそうなことだ。もう死んでいる」
二人は島に穴をほると、その男をていねいにうめてやりました。
「今日は、ひきあげよう。おばあさんに頼まれていた物を買ってから帰ろう」
二人は大きな町がある港へ、舟をこぎ寄せました。
おみそやお米を買おうと、お米屋へ行ったら、そこの旦那(だんな)が声をかけてきました。
「もし、あなたたちは、昨夜の大雨の時、どうしていましたか?」
「はい、わしたちは危ういところで島に逃れられました」
「そうでしたか、それはよろしゅうございました。ところでここへ来る途中、千石船(せんごくぶね→江戸時代、米を千石ほど積める大形の和船)を見かけませんでしたか?」
「いいや、見なかったですな。ですが今日、わしらのアミに若い男の死骸(しがい)がかかって、島にうめてきました」
「死骸ですと!」
「なにか、心当りでもありなさるのか?」
「実は、息子が大阪に千石船で米を積んで出て行ったのですが、そこへあの大雨。心配しているところです」
「そうじゃったか」
「ごめんどうをおかけしますが、わたしをその島へ連れて行ってもらえますまいか?」
二人は旦那を乗せて、その島へ戻りました。
うめた死骸をほり返してみると、旦那の顔から血の気が引きました。
「むっ、息子です」
二人は死骸を乗せて再び港へ引き返し、立派な葬式(そうしき)にも立ちあいました。
「あなたたちには、すっかりお世話になりました。わたしの心からのお礼を港に用意しました。どうか受け取って下さい」
「いや、お礼なんぞいりません」
「いいえ、あなたたちは息子をていねいにうめて下さっただけでなく、持っていたお金も、そっくりそのままそえて下さっていた。その正直さに感銘(かんめい→感動)しました。どうぞ受け取ってやって下さい」
あまりにも旦那が言うので受け取ることにしたのですが、旦那につれられて港へ行ってビックリです。
なんと旦那が用意したお礼は千石船で、しかも米千石が積んであったのです。
その上、死んだ息子がもっていた百両(ひゃくりょう→七百万円ほど)以上もの金もくれたのです。
二人はたちまち大金持ちになり、嫁とおばあさんの待っている家へと帰っていきました。
おしまい
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