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3月28日の世界の昔話
  
  
  
  美しい妹と九人のにいさん
  ロシアの昔話 → ロシアの国情報
 むかしむかし、猟師(りょうし)の夫婦(ふうふ)がくらしていました。
   二人には、九人の息子がいました。
   猟師は年をとったので、自分の死んだあとのことを考えて、九人の息子に財産(ざいさん)をわけてやりました。
   一番上の息子にはウマを、
   二番目の息子にはメスウシを、
   三番目にはオスヒツジを、
   四番目にはメスヒツジを、
   五番目には子ブタを、
   六番目には小船を、
   七番目には、魚をとるためのアミを、
   八番目には、ウマの毛でつくったワナを、
   九番目には、弓をやることにしました。
  「もし、十番目の息子が生まれたら、その子に家をやることにしよう」
  と、猟師はいいました。
   ところがまもなく、十番目の子どもが生まれることがわかりました。
   それを知った九人の兄弟は、集まってそうだんしました。
  「どうせこの家は、生まれてくる弟のものだ。しかたがない。みんなで森へいってくらそう」
   兄弟は、お父さんとお母さんのところへいって、こういいました。
  「これから森ヘいって、狩りをしてこようと思います。いつ帰れるかわかりませんが、心配しないでください。もし妹が生まれたら、屋根のうえに糸車をあげてください。弟だったら、カマをあげてください」
   兄弟たちがいってから、いく日かたちました。
   そして猟師の家には、女の子が生まれました。
   お母さんは兄弟たちからたのまれていたことを思いだして、屋根の上に糸車をおきました。
   ところが、わるい魔法使いのシュビャタルが、このことを知りました。
   シュビャタルは、猟師の家の屋根に糸車があがったのを見ると、夜中にその糸車をカマにとりかえておきました。
   さて、森の中の九人の兄弟は、なつかしい家のことをいつも思いだしていました。
   ある日、九人が森のはずれから家の屋根をながめると、屋根の上にカマがあがっていました。
  「やっぱり、弟が生まれたんだ。弟が家をもらうんだから、おれたちはこのまま森でくらそう」
   兄弟たちは、森のおくヘひきかえしました。
   兄弟の妹はスクスクとそだち、それはそれは美しい、心のやさしい娘になりました。
   妹は、お母さんがまい晩のように、箱から九枚の男のシャツをとりだしては、なみだを流しているのに気がつきました。
  「お母さん。どうしてなくの?」
  「娘や。おまえには、ほんとうは九人の兄さんがいるんだよ。おまえの生まれるすこしまえに、そろって森へ狩りにいったきりでね。生きているのか死んでいるのか、わからないんだよ」
   そのときから妹は、兄さんたちのことがわすれられなくなりました。
   そしてとうとう、自分でさがしにいこうと、けっしんしました。
   お母さんは、ないてひきとめましたが、でも、どうしてもとめられないことがわかると、娘のために旅の用意をしてやりました。
   肉まんじゅうを焼いて、九枚のシャツを袋(ふくろ)に入れました。
   そして、イヌのシャーボチカを、いっしょにつれていくようにいいました。
   妹はシャーボチカをつれて、旅にでかけました。
   すると、どこからともなく、きたないむしろを着た一人の女がでてきて、妹のそばにやってきました。
  「こんにちは、娘さん。一人旅はさびしいものです。いっしょにいきましょう」
   その女は、あのおそろしい、シュビャタルだったのです。
   でも妹は、なにも知らずに、喜んでいっしょに歩いていきました。
   二人は、湖(みずうみ)にきました。
  「娘さん、水あびをしませんか?」
  と、シュビャタルはさそいました。
   するとシャーボチカがけたたましくほえたて、妹の服のすそをくわえてさけびました。
  「ワンワン、いけません、いけません」
   シュビャタルはおこって、シャーボチカに石をなげつけました。
   けがをしたシャーボチカは、片足をひきずって、ついていきました。
   また、湖にやってきました。
   シュビャタルはまた、妹を水あびにさそいました。
   けれどもシャーボチカがほえたてて、こんども水あびをさせませんでした。
   シュビャタルはますますおこって、シャーボチカにまた石を投げつけました。
   またけがをしたシャーボチカは、やっとのことで、妹についていきました。
   またまた、湖がありました。
   シュビャタルはなんとかして、妹に水あびをさせようとしました。
   けれどもまたもや、シャーボチカにじゃまされてしまいました。
   そこでとうとう、シュビャタルはシャーボチカを殺してしまいました。
   一人のこされた妹は、けっきょく、水あびをさせられました。
   そのあいだに、シュビャタルは妹の服を着こみ、肉まんじゅうや兄弟のシャツをとりあげました。
   かわいそうな妹は、シュビャタルのむしろを着なければなりません。
   ところがそのむしろの中には、毒(どく)の針(はり)が入れてあったので、妹はその毒で、ものがいえなくなってしまいました。
   口がきけない妹は、なくなくシュビャタルのあとからついていきました。
   だいじなシャツをとりあげられてしまっては、にげだすこともできません。
   シュビャタルは、兄さんたちの住んでいるところを知っていました。
   森の中に、きいろい花が一面にさいている野原があり、そのまんなかにたっている家が、兄さんたちの家でした。
   中にはいっていくと、九人の若者がグッスリとねむっていました。
   シュビャタルは、妹をだんろのかげに追いやると、袋から九枚のシャツをだして、一人一人のまくらもとにおきました。
   肉まんじゅうも、そばにおきました。
   そして、兄弟が目をさますのをまちました。
   やがて、九人の兄弟が目をさましました。
  「おや? これはぼくのシャツだ。お母さんがぬってくれたシャツだ」
   みんなはおどろきながら、シャツを着ました。
   ふと見ると、肉まんじゅうがあります。
   さっそくかじって、口ぐちにさけびました。
  「こんなにうまい肉まんじゅうは、お母さんしかつくれないはずだ」
   そのときシュビャタルは、みんなの前へ走りだして、さもうれしそうな声をあげていいました。
  「兄さんたち。わたしがおわかりになりませんか。あなたがたの妹です。シャツとおまんじゅうを持って、兄さんたちにあいにきたのです」
   兄さんたちは、夢かとばかり喜んで、シュビャタルをだきしめました。
   一番上の兄さんが、だんろのかげでないている娘を見つけて聞きました。
  「あれは、だれだろう?」
  「ああ、あれは、わたしがつれてきた娘よ。なにもわからないバカな子ですから、あそこにすわらせておけばいいのよ」
  と、シュビャタルはすましてこたえました。
   シュビャタルは、ほんとうの妹がつらい思いをしているのに、兄さんたちがなにひとつ知らないのが、うれしくてなりませんでした。
   つぎの日から、妹はブタ飼(か)いをさせられました。
   たべるものといえばブタのえさと、カエルのおまんじゅうしかもらえませんでした。
   シュビャタルは妹を森へやるまえに、むしろの服の中から、毒針をひきぬきました。
   ブタを集めるのに声がでないと、こまるからです。
   妹はブタを飼いながら、空をとぶガンにはなしかけました。
  「ガンよ、ガンよ。聞いておくれ。お父さんとお母さんにつたえておくれ。『あなたがたの娘は、兄さんのところでブタを飼っています。だんろのかげでないています。魔法使いのシュビャタルがわたしにばけて、兄さんたちをだましています』と」
   日がくれると、妹はブタを集めて帰りました。
   シュビャタルは、道のとちゅうでまちかまえていて、毒針をさしました。
   妹はまた、口がきけなくなりました。
   妹はだんろのかげで、ひと晩じゅうないています。
   それを見て、かわいそうに思った一番下の兄さんは、あくる日、ブタ飼いにいく妹のあとを、こっそりつけていきました。
   きのうのようにシュビャタルは、むしろの服から毒針をぬきとりました。
   森へいくと、妹は空をとぶガンに、なきながらはなしかけました。
  「ガンよ、ガンよ。聞いておくれ。お父さんとお母さんにつたえておくれ。『あなたがたの娘は、兄さんのところでブタを飼っています。だんろのかげでないています。魔法使いのシュビャタルがわたしにばけて、兄さんたちをだましています』と」
   木のかげでそれを聞いた、一番下の兄さんは、とびだしていって妹をおもいきりだきしめました。
   妹はいままでのことを、のこらず兄さんにはなしました。
   二人がブタを追いながら帰っていくと、道のとちゅうにシュビャタルがまっていました。
   妹をまもりながら、兄さんはさけびました。
  「にくい魔法使いめ! よくもたいせつな妹をひどいめにあわせたな。もうゆるさんぞ」
   いつのまにか、あとの兄弟たちもやってきて、シュビャタルをとりかこみました。
   力もちの兄弟たちには、さすがのシュビャタルもかないませんでした。
   兄さんたちはシュビャタルの服をぬがせて、妹に着せました。
   シュビャタルは、グルグルまきにしばられて、森の中においてけぼりにされました。
   そして九人の兄さんは妹をつれて、なつかしいお父さんとお母さんの家へ帰っていきました。
おしまい