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世界の有名な話 第10話
クルミ割り人形とネズミの王さま
ホフマンの童話
むかしむかしの、あるクリスマスの前の晩でした。
女の子のマリーは、お父さんとお母さんから、とってもすてきなプレゼントをもらいました。
おいしそうなお菓子、おもちゃのウマ、ネジで動く兵隊(へいたい)さん、それから、とてもすばらしいお城。
その中でマリーがいちばん気にいったのは、変なかっこうをしたクルミ割り人形でした。
「あたし、あなたが大好きよ」
マリーがクルミ割り人形を抱いて、そういったときです。
突然そこへ、何十匹ものネズミの大軍が押し寄せてきたのです。
すると、どうでしょう。
今までジッとしていた人形たちが動きだして、ネズミの大軍と戦争を始めたではありませんか。
もちろん、マリーに抱かれていたクルミ割り人形も立ちあがって、いさましく戦いました。
ところが、ネズミはおおぜいです。
人形たちは、負けそうになりました。
そこで思わずマリーは、自分のクツをネズミの大軍に投げつけたのです。
ネズミたちはビックリして、逃げていきました。
つぎの晩、またネズミの大軍がマリーのへやにやってきました。
「おい、ちびすけ。おれたちにお菓子をよこせ。よこさないと、クルミ割り人形を殺してしまうぞ」
ネズミたちはこういって、マリーをおどかしました。
マリーはクルミ割り人形をしっかり抱いて、首をふりました。
ところが、つぎの晩も、そのつぎの晩も、ネズミたちはやってくるのです。
「ぼくに、刀をかしてください。そうしたら、ネズミたちをやっつけてやります」
ある晩、クルミ割り人形がいいました。
そこでマリーが、おもちゃの刀を持たせてやると、クルミ割り人形はネズミの王さまと戦って、とうとう王さまを倒してしまいました。
「刀を貸してくれてありがとう。お礼に、あなたを人形の国に連れていってあげましょう」
クルミ割り人形は、マリーを楽しい人形の国へ連れて行ってくれたのです。
朝になって、マリーは家の人にその話をしました。
「マリー、それは、あなたが夢を見ていたのよ」
お母さんが、いいました。
「そうだよ。だいたい、そんなばかなことがあるはずないじゃないか」
お父さんも、いいました。
(そうね。夢だったのかも)
ところが、それから何年かたった、ある日のことです。
マリーの家に、りっぱな若者がたずねてきました。
玄関に出たマリーを見ると、若者はやさしい目でほほえみます。
はじめて見る顔ですが、マリーは、若者とどこかであったような気がしました。
「・・・あなたは、だあれ?」
「わたしは、あなたのおかげで人間にもどることができた、クルミ割り人形です。子どものころネズミののろいをうけて、人形にされてしまいました。でも、あなたがかしてくれた刀でネズミの王さまをたおし、やっと人間になれたのです」
それを聞いて、マリーは、すっかりうれしくなりました。
「どうか、わたしのお嫁さんになってください」
「はい」
マリーは若者のお嫁さんになって、銀のウマが引く金の馬車に乗って、若者といっしょに出かけていきました。
これはマリーの夢なのか、それとも本当のことなのか、マリーにもわかりません。
本当なら、すてきですね。
おしまい
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