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世界のとんち話 第9話

小ウサギのしょうばい

小ウサギのしょうばい
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 むかしむかしの、ある秋のこと。
 小ウサギが五十リットルのトウモロコシと、五十リットルのマメをとりいれました。
 ずるがしこい小ウサギは、これでうんともうけてやろうと思いました。
 小ウサギは朝はやく、ムギわらボウシをかぶり、新しいうわぎをきてでかけました。
 まずアブラムシの家にいって、トントンと戸をたたきました。
 アブラムシはちょうど、コーヒーマメをひいていましたが、
「まあ、まあ、どなたかしら?」
と、いいながら戸をあけました。
「ああら、小ウサギさんじゃないの。どうぞ、おはいりになって」
 小ウサギは中にはいって、イスに腰かけながらいいました。
「あなたに、わたしがとりいれた五十リットルのトウモロコシと、五十リットルのマメを、安く売ってあげようかと思いましてね。たったの五コロン(→日本円では百円ほどですが、現地ではフランスパンが10本以上買えます)で、いいんですよ」
「すこし、考えさせてくださいな」
と、アブラムシはこたえました。
「いやいや、それはこまります。すぐきめてください。あなたが買わないなら、だれかほかのひとにはなします。もし買おうというのでしたら、土曜日の朝はやく、わたしのところへきてください」
「では、買うことにしましょう。土曜日の朝七時ごろに、荷車をもって品物をいただきにまいりますわ。いまコーヒーをいれますから、めしあがっていってくださいな」
 小ウサギは、しょうばいの話をきめたうえに、コーヒーとケーキをごちそうになって、アブラムシの家をでました。
 そしてこんどは、メンドリの家にいきました。
「メンドリさん。じつは、わたしがこの秋とりいれた五十リットルのトウモロコシと、五十リットルのマメを、あなたに安く売ってあげようと思いましてね。たったの五コロンで、いいんですよ」
 メンドリは、五コロンならたしかに安いと思いましたので、土曜日の朝八時ごろに、荷車をもって品物をとりにいくとやくそくしました。
 小ウサギは、ここでもしょうばいの話がうまくまとまったうえに、おみやげにできたてのチーズをもらいました。
 それからこんどは、キツネの家にいきました。
「キツネさん。わたしがこの秋とりいれた、五十リットルのトウモロコシと五十リットルのマメを、安く売ろうと思っているんですよ。五コロンでいいんですが、買いませんか?」
 キツネも、このもうしでをよろこんでうけました。
 そして、土曜日の朝九時ごろ、品ものをとりにいくとやくそくしました。
 小ウサギはここでも、たくさんごちそうになりました。
 それから、オオカミのところへいきました。
 ここでもいままでと同じように、トウモロコシとマメをうまく売りつけました。
 オオカミは土曜日の十時ごろ、品物をとりにいくとやくそくしました。
 さいごに小ウサギは狩人(かりゅうど)のところへいって、同じようにしょうばいの話をうまくとりきめました。
 狩人には、十一時ごろきてくれるようにいいました。
 いよいよ、土曜日になりました。
 まだ、お日さまがのぼらないうちに、アブラムシが荷車をもってやってきました。
「トウモロコシもマメも、うちのうしろにありますから、荷車はそこへおいてらっしゃい。それがすんだら、ひと休みしていってください」
と、小ウサギはいいました。
 アブラムシはいわれたとおりに、荷車をうらへもっていきました。
 それから家の中へはいってきて、やくそくの五コロンを小ウサギにわたしました。
 それから小ウサギにすすめられるままに、ながイスに腰をおろして、のんびりと葉まきタバコをふかしはじめました。
 二人はしばらくのあいだ、なにやかやと話をしていましたが、とつぜん小ウサギがさけびました。
「あっ、たいヘんだ! メンドリがこっちへやってきますよ」
 とたんにアブラムシはまっ青になって、ブルブルとふるえだしました。
「見つかったら、たべられてしまうわ。どこかへ、かくしてちょうだい!」
 そこで小ウサギは、アブラムシをだんろの中にかくしてやりました。
 そこへメンドリが、ニコニコしながらやってきました。
「小ウサギさん。ちょうど時間どおりよ」
 小ウサギは、なやにトウモロコシとマメがあるから、そこへ荷車をおいてきて、ひと休みするようにといいました。
 メンドリはいわれたとおりにしてから、小ウサギに五コロンをわたしました。
 それからながイスに腰かけて、葉まきタバコをふかしながら、しばらくのあいだ二人で話をしていました。
 するととつぜん、小ウサギがさけびました。
「あっ、たいへんだ! キツネがこっちへやってきますよ」
 とたんに、メンドリは顔色をかえて、ブルブルとふるえだしました。
 それを見て、小ウサギは、
「そのだんろの中にかくれていらっしゃい。そうすりゃ、見つかりっこありませんから」
と、いって、アブラムシのかくれているだんろの中へ、メンドリをおしこみました。
 だんろの中に入ったメンドリは、そこにいたアブラムシをひとのみにしてしまいました。
 小ウサギは外へでていって、キツネをむかえました。
 荷車はそばの原っぱヘおいて、まずひと休みするように、家の中へむかえいれました。
 キツネがやくそくの五コロンをわたすと、小ウサギはキツネにむかって、しきりにだんろのほうを目くばせして見せました。
「おや、だんろに何かあるのかい?」
 キツネは、だんろの中をのぞいて見ました。
 かわいそうにメンドリは、あっというまにキツネに、くいころされてしまいました。
 おなかが大きくなったキツネが、気持よさそうに葉まきタバコをふかしていると、小ウサギがさけびました。
「たいへんだ! オオカミがきますよ。はやく、かくれなさい!」
 キツネはあわてて、小ウサギにおされるままに、だんろの中にもぐりこみました。
 オオカミは荷車を、いけがきのところへおいてから、五コロンを小ウサギにわたしました。
 小ウサギは、オオカミにむかって、だんろのほうを目くばせして見せました。
「おや、だんろに何かあるのかい?」
 オオカミは、だんろの中をのぞきこみました。
 だんろの中でふるえていたキツネは、たちまちオオカミに食べられてしまいました。
 キツネを食べたオオカミが、いい気持で葉まきタバコをふかしていると、ふいに小ウサギがさけびました。
「たいへんだ。狩人が鉄炮をもってやってきますよ」
 それを聞くと、オオカミはビックリ。
「きっと、おれをうちにきたにちがいない。どこかかくれるところはないか?」
 小ウサギは、オオカミをだんろの中へおしこみました。
 そこへ、狩人がやってきました。
 小ウサギは、あいそよく、
「よくきてくださいました。まあ、ひと休みして、葉まきタバコでもふかしてください」
と、いって、家の中へさそいいれました。
 それから、小ウサギは声をひくくして、
「あなたは、オオカミのやつがおきらいでしょう。だんろの中をねらって、ズドンと一発うってごらんなさい。そうすりゃ、オオカミのやつをやっつけられますよ」
と、ささやきました。
 狩人はすぐさま、ズドン! ズドン! と、鉄炮をうちました。
 すると、うちころされたオオカミが、だんろからころがりでました。
 それから狩人は、小ウサギといっしょにおもてへでていって、トウモロコシとマメのふくろをウマにつみました。
 そして、小ウサギに五コロンをはらって、帰っていきました。
 こうして狩人だけが、小ウサギのトウモロコシとマメを買ったことになりました。
 わる知恵をはたらかせた小ウサギは、五十リットルのトウモロコシマメで、二十五コロンをもうけ、おまけに四台の荷車も手に入れました。

おしまい

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