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8月10日の世界の昔話
  
  
  
  空飛ぶ木馬
  中国の昔話 → 中国の国情報
 むかしむかしのある日のこと、大工とかじやが、あらそいをはじめました。
  「そりゃあ、わしのほうが腕がいいさ」
  「いやいや、なんといっても、わしのほうだ」
  「バカをいえ! わしの腕まえを知らないな」
  「なにを! きさまこそ」
   いいあいは、半日も続いていますが、まだ勝負がつきません。
   そこで王さまに、きめていただこうと、いうことになりました。
   二人が王さまのところへいってわけをはなしますと、王さまはしばらく考えてからいいました。
  「では、きょうから十日のあいだに、それぞれ腕をふるって、一番よいものをつくってきなさい。それを見て判断しよう」
   それから、十日たちました。
   夜があけるといっしょに、かじやがやってきました。
   そして、ひとかかえもある大きな鉄のさかなを、王さまの前にさしだして、
  「このさかなは、十万袋の穀物(こくもつ)をつんで、海の中を泳ぐことができます」
  と、いいました。
  (まさか、そんなことはできまい)
  と、王さまは思いましたが、
  「ためしてみなさい」
  と、いいつけました。
   そこでおもい穀物をズッシリとつめた袋を、そのさかなのおなかにつんで、水の中にいれました。
   するとおどろいたことに、さかなはスイスイと泳ぎだしたのです。
   ちょうどそこへ、大工が一頭の木馬をかついでやってきました。
   王さまは、それを見ると、
  「なんだ、子どものおもちゃではないか」
  と、バカにしたようにいいました。
  「いえ、ただのおもちゃではございません。これは、空をとぶ木馬です。ほれこのとおり、ねじがついておりまして、第一のねじをまわすととびあがります。つぎのねじをまわすと、はやさが加わります。それからつぎつぎに、二十六までまわしますと、鳥よりもはやくとび、世界じゅうをとびまわることができるのでございます」
   それをそばで見ていた王子が、
  「すごい! すぐにためしてみたい」
  と、いいだしました。
   王さまは一人っ子の王子を、目にいれてもいたくないほどかわいがっていましたので、
  「では、ちょっとだけ、ためしに乗るだけにしなさい。すぐに、おりるのだよ」
  と、ゆるしてしまいました。
   王子は喜んで、さっそく木馬にまたがりました。
   木馬はすぐにとびあがり、山も、川も、家も、みんなとおのいていきます。
   王子はうれしくなって、つぎつぎと、ねじをまわしていきました。
   木馬はものすごいはやさで、グングンととんでいきます。
   王子が気がついたときには、もう、見たこともない国の上にきていました。
   王子はふと、その国を見物してみたくなりました。
   そこで木馬のねじをしめて、町はずれの森の中におりました。
   さて、町の中を見物していますと、人びとがみんな、空の一か所をながめています。
   ふしぎに思って、そばの年よりに聞いてみました。
  「ああ、この国の王女さまがあんまりお美しいので、王さまは、お城におくのが心配になられましてな。神さまにおねがいして、空にご殿をつくり、そこに住まわせておりますのじゃ」
  「では、王女さまは、たったお一人でいるんですか?」
  と、王子はたずねました。
  「いや、昼間は王さまが、かならず会いにでかけます。きょうもこうして、そのお帰りをおまちしているところです」
   それを聞いた王子は、夜になると木馬に乗って、空をとんでいきました。
   なるほど、すてきなご殿が、空の中ほどにうかんでいます。
   王子は門の前で木馬をおりて、まっすぐご殿の中へはいっていきました。
   足音を聞いて、王女がいそいでむかえにでてきました。
   いつも一人ぼっちで、さびしくてならなかったのでしょう。
   ところがでてみると、これまであったこともない、りっぱな王子が立っているではありませんか。
   王女は、胸がドキドキしてきました。
   もちろん王子のほうでも、美しい王女を見て、ひと目で心をうばわれてしまいました。
   その日から王子は、まい晩のように木馬に乗っては、空のご殿の王女のもとへいくようになりました。
   そして、夢のようにたのしい一晩をすごすと、夜のあけないうちにもどってくるのでした。
   ところがまもなく、このことが王さまに気づかれてしまいました。
   王さまは、近ごろ姫のたいどがかわったことや、へやのようすから見て、だれかがたずねてくるのにちがいないと思いました。
  「わしのほかに、空にのぼれるやつがいるとは。よし、そいつをひっとらえてくれよう」
   王さまはいそいで、家来たちをよび集めてそうだんしました。
   すると、一人のかしこい家来がすすみでて、
  「いい考えがございます。王女さまのおへややイスなどに、うるし(→うるしの木からとった着色剤)をぬっておきましょう。そうすれば、そのうるしのついている男が犯人でございます」
  と、いいました。
   そこで王さまは、王女のヘやのありとあらゆるものに、うるしをぬっておきました。
   その晩、なにも知らない王子は、いつものように王女のところヘやってきました。
   さて帰るとき、ふと自分のきものを見ますと、あっちにもこっちにも、うるしがついています。
   そこで王子は、宝石のついているきものをおしいとも思わずに、さっさと空からぬぎおとしてしまいました。
   地上では、まだ夜があけたばかりで、みんなねむっていました。
   ただ一人、朝はやく神さまにおつとめする、まずしいおじいさんだけがおきていました。
   王子のぬぎすてたきものは、そのおじいさんの上におちていきました。
  「おやおや、これは神さまのおめぐみにちがいない。ありがたいことだ」
  と、おじいさんはよろこび、夕方の神さまにおつとめするとき、このきものをきていきました。
   お寺では、役人たちが集まってくる人びとのきものをしらべていました。
   そこへ、おじいさんがうるしのついたきものをきてやってきたのですから、たちまちつかまってしまいました。
  「あの正直なおじいさんが、かわいそうにねえ」
  「罪もないのに。きっと、なにかのまちがいだよ」
  と、人びとは気のどくそうに、はなしあいました。
   このうわさは、王子の耳にもはいってきました。
  「これはたいへんだ! わたしのせいで、罪のない人が!」
   王子は木馬をかかえると、さっそく、おじいさんが死刑にされる場所にかけつけました。
   見ると、おじいさんの首には、もう、なわがかけられているではありませんか。
   いままさに、王さまが死刑をいいわたそうとしているところです。
  「まってくれ! 空のご殿にあがったのはわたしだ。うるしのきものも、ぼくのだ。さあ、ぼくを死刑にしてくれ。このおじいさんには罪はないんだ」
   王子は、むちゅうでさけびました。
   これを聞いて、死刑をおこなう役人は王さまにたずねました。
  「どちらの首をしばったら、よろしいでしょうか?」
  「いま名乗ってでた、わかい男のほうをしばれ!」
  と、王さまはめいれいしました。
   そこで役人たちは、王子のそばへかけよって、王子をつかまえようとしました。
   ところがそれよりはやく、王子は木馬のねじをまわして、鳥よりもはやく空にとびあがってしまいました。
   王子はそのまま、空のご殿にとんでいって王女にいいました。
  「わたしは、あなたのおとうさまに知られてしまいました。こうしてはいられません。さあ、いっしょにわたしの国へいきましょう」
  「はい、どこへでもおつれください」
   二人はいそいで木馬に乗ると、王女の国をあとにして、まっすぐに王子の国ヘむかいました。
   さて、王子の国では、王子が木馬に乗ってどこかへいったきり、行方不明なので、みんな心配していました。
   王さまは、こんなことになったのも、木馬をつくった大工のせいだといって、大工をろうやにおしこめたところでした。
   そこへ王子が、美しい王女をつれてもどってきたのです。
  「おとうさま。木馬のおかげで遠くの国へもいけましたし、このとおり、美しい王女もつれて帰ってくることができました。大工とかじやの勝負は、大工の勝ちです」
   王子のことばを聞いて、王さまはいそいで大工をゆるしてやり、そのうえ、たくさんのほうびをあたえました。
   そして、王子と王女は結婚して、しあわせにくらしたということです。
おしまい