福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読 
         
        
      イラスト thin-p@A'sf 
       
聴き耳ずきん 
      
      
       むかしむかし、まわりをグルッと山でかこまれた山おくに、一人のおじいさんがすんでいました。 
 おじいさんは、毎日朝になると、しばを入れるしょいこを背負い、山へ入っていきました。 
 そして、一日中しばをかっているのです。 
 きょうも、しばをいっぱい背負い、山から出てきました。 
「さて、ボツボツ帰るとするか。うん? あれはなんじゃ?」 
 おじいさんが帰ろうとすると、子ギツネが一匹、いっしょうけんめい木の実をとろうとしていました。 
「はて、キツネでねえだか」 
 この子ギツネ、足がわるいらしく、いくらがんばっても、うまく木の実がとれません。 
「よしよし、わしがとってやろう。よっこらしょ。さあ、これをお食べ。それじゃあ、わしはいくからな」 
 子ギツネは、おじいさんのしんせつがよほどうれしかったのか、いつまでもいつまでも、おじいさんの後ろすがたを見送っていました。 
 そんなある日、おじいさんは町へ買い物に出かけましたが、帰りがすっかりおそくなってしまいました。 
「いそがなくては」 
 すっかり暗くなった日ぐれ道を、おじいさんがいそぎ足でやってきますと、おかの上で子ギツネが待っていました。 
「あれまあ、こないだのキツネでねえだか」 
 なにやら、しきりにおじいさんをまねいているようすです。 
 おじいさんは、キツネの後をついていきました。 
 子ギツネは、わるい足をひきずりながら、いっしょうけんめいに、おじいさんをどこかへ案内しようとしています。 
 ついたところは、竹やぶの中のキツネのすみかでした。 
「ほう、ここがおまえの家か」 
 キツネの家には、お母さんギツネがおりましたが、病気でねたきりのようです。 
 お母さんギツネが、なんどもなんどもおじいさんにおじぎをしています。 
 息子を助けてもらったお礼を、いっているようにみえました。 
 そのうち、おくからなにやらとりだしてきました。 
 それは、一まいの古ぼけたずきんでした。 
「なにやら、きたないずきんじゃが、これをわしにくれるというのかね。では、ありがたくいただいておこう」 
 おじいさんは、お礼をいってずきんをうけとると、もときた道を一人で帰っていきました。 
 子ギツネは、いつまでもおじいさんを見送りました。 
 さて、あくる日のこと。 
 おじいさんが庭でまきをわっていますと、ヒラリと、足もとになにかがおちました。 
「これはゆんべ、キツネからもらったずきんじゃな。・・・ちょっくらかぶってみるか」 
 おじいさんはずきんをかぶって、またまきわりをはじめました。 
 すると、 
「うちのていしゅときたら、一日中、巣の中でねてばかり。いまごろは、すっかり太りすぎて、とぶのがしんどいなぞというとりますの」 
「ほう、やせのちゅん五郎じゃった、おたくのていしゅがのう」 
 なにやら聞いたこともない話し声が、おじいさんの耳に聞こえてきました。 
「はて、たしかに話し声がしたが、だれじゃろう?」 
 家の中をのぞいてみましたが、だれもいません。 
「うら林のちゅん吉が、はらがいたくてすっかり弱っとるそうじゃ」 
「それは、木の実の食べすぎじゃあ」 
 おじいさんは、また声に気がつきました。 
「おかしいのう。だれか人がいるようじゃが、やっぱりだれもおらん」 
 おじいさんは、家をグルリとひとまわりして、ヒョイと上を見上げました。 
「うん? もしかしたら、このずきんのせいでは」 
 おじいさんは、ずきんをぬいだりかぶったりしてみました。 
「やはりこれか」 
 キツネがくれたこのずきんは、これをかぶると、動物や草や木の話し声が聞こえるという、ふしぎなずきんだったのです。 
 おじいさんは、キツネがこんなにたいせつなものを自分にくれたことを、心からうれしく思いました。 
 さて、つぎの日から、おじいさんは山へいくのがこれまでよりも、もっともっと楽しくなりました。 
 ずきんをかぶって山へ入ると、小鳥や動物たちの話し声が、いっぱい聞こえてきます。 
 えだに止まって話している小鳥。 
 木の上で話しているリス。 
 みんな楽しそうに、話しています。 
 おじいさんは、山でしばをかりながら、小鳥や動物のおしゃべりを聞くのが楽しくてしかたありません。 
「わたしゃ、のどをいためて、すっかり歌に自信がなくなっちまった」 
「そんなことございませんよ。とってもよいお声ですわ」 
「そうかな、では、いっちょう歌おうかな」 
 なんと、虫の話し声まできこえるのです。 
 おじいさんはこうして、夜どおし虫たちの歌声に耳をかたむけていました。 
 一人ぐらしのおじいさんも、これですこしもさびしくありません。 
 そんなある日のこと。 
 おじいさんが、山からしばを背負っておりてきますと、木の上でカラスが二羽、なにやらしゃべっています。 
 おじいさんはきき耳ずきんをとりだしてかぶり、耳をすましますと、 
「長者(ちょうじゃ)どんの娘がのう」 
「そうよ、もう長いあいだの病気でのう。この娘の病気は、長者どんの庭にうわっとる、くすの木のたたりじゃそうな」 
「くすの木のたたり? なんでそんな」 
「さあ、それはくすの木の話を聞いてみんとのう」 
 カラスのうわさ話を聞いたおじいさんは、さっそく長者の家をたずねました。 
 長者は、ほんとうにこまっていました。 
 一人娘が、重い病気でねたきりだったからです。 
 おじいさんはその夜、くらの中にとめてもらうことにしました。 
 ずきんをかぶって、待っていますと。 
「いたいよ。いたいよ」 
 くらの外で、くすの木のなき声らしきものが聞こえます。 
 くすの木に、なぎの木と、松の木が声をかけました。 
「どうしました、くすの木どん?」 
「おお、こんばんは。まあ、わたしのこのかっこうを見てくだされ。新しいくらが、ちょうどこしの上にたってのう。もう、苦しゅうて苦しゅうて」 
「それは、お困りじゃのう」 
「それでのう、わしは、こんなくらをたてた長者どんをうらんで、長者どんの娘を病気にして、こまらせているんじゃ」 
 くらの中のおじいさんは、くすの木たちのこの話を聞いて、すっかり安心しました。 
(くらをどかしさえすれば、娘ごのやまいは、かならずよくなる) 
 つぎの日。 
 おじいさんは、長者にこのことを話しました。 
 長者は、すぐにくらの場所をかえることにしました。 
 それから何日かたって、くらの重みがとれたくすの木は、元気をとりもどして、青い葉をいっぱいにしげらせたのです。 
 長者の娘も、すっかり元気になりました。 
 長者は大よろこびで、おじいさんにいっぱいのお宝をあげました。 
「これは、キツネがくれたずきんのおかげじゃ。キツネの好物でも買ってやるべえ」 
 おじいさんは、キツネの大好きな油あげを買って、山道を帰っていきました。 
      おしまい 
      ※ この「聴き耳ずきん」の朗読とイラストは、以下の方々よりご提供を受けております。 
         
        おはなしパタくん 2009年2月3日号 
      日本の昔話「聴き耳ずきん」 
      http://patakun.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-f57e.html 
      出演:山口真依  
        音楽・演出・イラスト:thin-p@A'sf  
        企画・制作:A'sf 
       
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