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          福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読 
         
           
         
毒の粉  
      
      
       むかしむかし、とても仲の悪いお姑さんとお嫁さんがいました。  
 お姑さんというのは、お嫁さんが結婚したお婿さんのお母さんの事です。 
 このお姑さん、最初はお嫁さんと仲が良かったのですが、お婿さんが病気で死んでから、お嫁さんをいじめる様になったのです。 
 
 お嫁さんが掃除をした後、お姑さんは必ず文句を言います。 
「なんだい、この掃除の仕方は! 
 ここに、ほこりが付いているじゃないか! 
 ほらここも! ここも! 
 ああ、だらしない嫁だねえ!」  
 そしてお嫁さんがご飯を作れば、  
「なんだい、この魚は! 
 尻尾が焦げているじゃないか! 
 焦げは、体に毒なんだよ! あたしを殺すつもりかい! 
 それにこの味噌汁、辛すぎて飲めやしないよ! ぺっ、ぺっ!」  
と、文句を言って吐き出す真似をします。  
 
 近所で人に出会えば、お嫁さんに聞こえる様にわざと大声で、  
「ねえ、聞いておくれよ。 
 家の嫁と来たら、掃除は出来ないわ、飯はまずいは・・・」  
と、お嫁さんの悪口を言うのでした。  
 こんな事が毎日毎日続くので、お嫁さんはお姑さんが大嫌いでした。 
 
 そんなある日の事、ついに我慢が出来なくなったお嫁さんは、お寺の和尚さんに相談をしました。 
「わたし、これ以上は我慢できません! もう、死のうと思います。こんな毎日が続くよりは・・・」 
「なるほど。だが、あんたが死ぬ事は無い。話を聞く限り、死ぬのはむしろ、姑さんの方だろう」 
「それはそうですが、でも、姑が死ぬまで待てません」 
「・・・それなら」 
 和尚さんは白い粉の入った袋を持ってくると、声をひそめて言いました。  
「よいか、これは毒の粉じゃ。 
 この毒の粉を毎日、姑さんのご飯に混ぜるのじゃ。 
 すると姑さんはだんだん体が弱くなり、やがて死んでしまうじゃろう。 
 これで全ては解決じゃ。 
 しかし、毒を混ぜた事が知れるとまずい。 
 あんたは笑顔で姑さんの言う事を聞いて、できる限り優しくしてやるのじゃ。 
 つらいじゃろうが、しばらくの辛抱だからな」  
「はい。ありがとうございます!」  
 お嫁さんは何度も何度もお礼を言って、和尚さんから毒の粉をもらって帰りました。 
 
 その日の夜、お嫁さんはお姑さんの夕飯にそっと毒の粉を混ぜて出しました。  
 それを一口食べたお姑さんは、いつもの様に文句を言います。  
「ああ、まずい! 何てまずい飯だろうね! 
 こんな物を食わせて、あたしを死なせる気かい!」  
 お嫁さんはカチンときましたが、でも、和尚さんに言われた様に笑顔を作ると、手をついて謝りました。  
「お母様、ごめんなさい。明日は、もっと上手に作る様に頑張りますので」 
 
 次の日、お姑さんはお嫁さんが掃除をした場所を調べて、いつもの様に怒鳴ります。 
「汚いね、これでも掃除をしたつもりかい! 
 まだこんなにも、ほこりが付いているじゃないか! 
 ああ、掃除もろくに出来ないとは、だらしない嫁だねえ!」  
 お嫁さんはカチンときましたが、でもにっこり微笑むと手をついて謝りました。  
「お母様、ごめんなさい。すぐに掃除をやり直します」 
 お嫁さんは笑顔で掃除をやり直しながら、心の中で思いました。 
(もう少し、もう少しの我慢だわ。もう少しすれば毒が効いて、病気になって死んでしまうのだから) 
 
 ところが不思議な事に、お姑さんは病気になるどころか、ますます元気になっていったのです。 
(おかしいわね? 毒の量が足りないのかしら?) 
 お嫁さんは毒の粉を多く入れると、それを残さず食べてもらえる様に、お姑さんに今まで以上の笑顔で接する様になりました。 
 
 すると不思議な事に、お姑さんのお嫁さんに対する態度が少しずつ変わってきて、近所の人に出会うと、こう言うようになったのです。  
「ねえ、聞いておくれよ。家の嫁は変わったよ。いつも笑顔で、とても働き者なんじゃ。家の嫁は、本当にいい嫁じゃ」 
 そして、お嫁さんが作ったご飯を食べると、うれしそうに目を細めて言います。  
「ああうまい、うまいねえ。あんたの作るご飯は、本当にうまいねえ」 
 そればかりか、お嫁さんが掃除をしていると、文句を言うどころかうれしそうにこう言うのです。  
「どれ、あたしも手伝ってやるよ。二人でした方が早く終わるからね。それで掃除が終わったら、一緒にお茶にしようね」  
 お嫁さんは、どうしてお姑さんが優しくなったのか全くわかりません。  
 でも褒められるとうれしくなって、気がつくと心の底から笑顔で笑っている事が多くなりました。  
 
 そんなある日。 
 今まで元気だったお姑さんの具合が急に悪くなり、寝込んでしまったのです。  
(毒のご飯が、ようやく効いてきたんだわ)  
 お嫁さんは、お姑さんの看病をしながら、うれしいはずなのに涙がこぼれてくるのが不思議でなりません。  
(どうして? あんなに大嫌いだったのに。早く死んでくれればと、いつも思っていたのに・・・)  
 その涙を見て、お姑さんが言いました。  
「ああ、泣くことはないよ。 
 心配せんでええよ。 
 大丈夫、すぐに良くなるから。 
 良くなったら、また一緒に働こうね。 
 あたしはあんたと働くのが、大好きじゃ」 
「・・・・・・」 
 その言葉を聞いたお嫁さんは、たまらなくなって裸足のまま家を飛び出しました。  
 そして和尚さんの所へ行って、泣きながら和尚さんに言いました。  
「ごめんなさい! 
 和尚さま、私が間違っておりました。 
 お母様は、いい人です。 
 本当に、いい人です。 
 和尚さま、どうか、お母様を助けてください。 
 毒の粉が効いて、もう死にそうなのです。 
 お願いです。お願いです・・・」  
 すると和尚さんは、優しく笑って言いました。  
「あはははは。 
 心配せんでもええ、大丈夫。 
 実はな、あの粉は毒ではなく、ただのイモの粉じゃ。 
 いくら食べても、元気になる事はあっても病気になる事はない」 
「でも、お母様は・・・」 
「なあに、姑さんが寝込んだのは、急に働きすぎたせいじゃろう。 
 しばらく休めば、すぐに良くなる」 
「本当ですか!」 
「うむ。本当じゃ。 
 それにしても、姑さんもお前さんも、イモの粉で意地悪病が治って良かったのう。 
 これからも笑顔で優しくしていれば、二人とも二度と意地悪病にはかからんじゃろう」  
 お嫁さんは涙をふいて微笑むと、和尚さんに深く頭をさげました。  
「和尚さま。ありがとうございます!」  
 
 その後、和尚さんの言葉通り、お姑さんの体はすぐに良くなり、お姑さんとお嫁さんはいつまでも仲良く暮らしたということです。  
      おしまい 
        
         
        
       
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