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      福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読 
       
        
       
あどけない目 
東京都の民話 → 東京都情報 
      
      
       むかしむかし、江戸(えど→東京都)の本所(ほんじょ)のいろは長屋に、二人の浪人(ろうにん)が隣り合わせに住んでいました。 
 一人は榎左門(えのきさもん)といって、七つになる一人娘と静かに暮らしていました。 
 もう一人の浪人は林田重三郎(はやしだじゅうざぶろう)といって妻と二人暮らしでしたが、妻からは早く仕官(しかん→役人になること)する様にと毎日の様に言われていました。 
 
 ある日の事、そんな二人に、仕官の声がかかったのです。 
 でもそれは、殿さまの御前(ごぜん→位の高い人の前)で試合をして、勝った方だけを仕官するというものでした。 
 これを聞いた重三郎(じゅうざぶろう)の妻は、大喜びです。 
 何しろ夫は、隣の左門(さもん)よりもずっと強いからです。 
「あなたさまの勝ちは、間違いありませんね」 
「うむ。だが、万一の事がない様にせねば」 
 重三郎(じゅうざぶろう)は試合の日まで、ただひたすら稽古(けいこ)を続けました。 
 
 さて、いよいよ試合の日。 
 重三郎と左門は、木刀を持って殿さまの御前で向かい合いました。 
 重三郎は自分の勝利を確信しており、すでに祝いの準備を妻に命じています。 
 一方の左門は勝ち負けにこだわらず、武士として恥ずかしくない試合をしようと思っていました。 
「では、始め!」  
 合図と同時に、二人は木刀を振り下ろしました。 
 その結果は、人々の予想とは反対に、左門が勝利したのです。 
 心のやさしい左門は、 
「友だちでありながら、この様な事になって・・・」 
と、負けた重三郎に頭を下げました。 
「くっ、くそ・・・・・・」 
 負けた重三郎は、左門がにくくてたまりません。 
 
 そして仕返しを考えた重三郎は、 
(そうだ。左門がなにより大事にしている、あの一人娘を殺してやろう) 
と、左門の留守に娘を連れ出すと、人気のない森の中へ連れ込みました。 
「お父さまが、森の向こうで待っているの? おじさま」 
 たずねる娘に重三郎は刀を抜くと、いきなり小さな娘の両腕を切り落として、心臓に刀を突き刺すと知らん顔で長屋に帰ったのです。 
 ところが家に入ったとたん、重三郎の顔が真っ青になりました。 
 なんと自分の妻が、血まみれになって倒れているのです。 
 それもちょうど自分が娘にやった様に両腕を切り落とされて、心臓を刀で突き刺されているのです。 
 
 重三郎はその日のうちに、妻殺しの罪で役人に捕まりました。 
 そして刑場(けいじょう)へひかれていく途中、重三郎は自分の目を疑いました。 
 大勢の人だかりの中に、父親の左門に手を引かれて、あの娘が自分を見つめているのです。 
「ああ、おれはなんとあさましい事をしたのだ。人をうらむと、それは自分にかえってくるのか」 
 重三郎は処刑される前に、そう言ったそうです。 
      おしまい 
         
         
        
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