福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読 
         
          
        イラスト 龍之進  三絶堂 
         
雨の夜のかさ 
豊臣秀吉の子どもの頃の話 
      
      
       むかし、農民から天下人へと大出世をした豊臣秀吉が、日吉丸と呼ばれていた子どもの頃のお話です。 
           
         ある夏の夜、蜂須賀小六(はちすかころく)という侍が家来を連れて橋の上を通りかかると、むしろをかぶって寝ている子どもがいました。 
        
       「邪魔だっ!」 
         小六が槍の先でむしろをはねのけようとすると、子どもはパッと飛び起きて、 
        「人が気持ち良く寝ているのに、何をするんだ!」 
        と、小六をにらみつけました。 
         その子どもはサルの様な顔をしていますが、なかなかに根性がありそうです。 
        「ほう。いい目をしておる。おれは蜂須賀小六だ。お前の名は?」 
        「おれは、日吉丸だ!」 
         小六はこの日吉丸という少年を気に入って、自分の屋敷に雑用係として連れ帰りました。 
   
         日吉丸はとても利口な子どもで、 
        
       どんな事を命じても大人よりもうまく仕事をこなします。 
         すっかり感心した小六は、ある日、日吉丸に言いました。 
        「お前は素晴らしく頭の良い奴だが、いくらお前でも床の間にある刀は取れまい」 
         小六が自慢の刀を指差すと、日吉丸はニッコリ笑って答えました。 
        
       「取れます」 
        「本当に、取れるか?」 
        「はい」 
        「いつまでに?」 
        「三日のうちに」 
        「よし。本当に取れたら、この刀をお前にやろう」 
   
         さて、それから二日たちましたが、日吉丸はやって来ません。 
   
         三日目の夜、曇っていた空から雨が降り出しました。 
         小六が床の間の刀を見張りながら本を読んでいると、窓の外でパラパラと雨をうけるかさの音がしました。 
        
       「小僧め、とうとうやって来たな」 
         小六は油断なく刀を見張りながら、窓の外の音に耳をすましていました。 
   
         それから何時間もたちましたが、かさを打つ雨の音はまだ続いています。 
        (小僧、いつまでそうしているつもりだ?) 
         イライラした小六は、窓際へ行くと障子を開けて言いました。 
        「小僧! そこにいるのはわかっているぞ! ・・・おや?」 
        
        そこには石灯籠にかさがくくりつけてあるだけで、日吉丸の姿はどこにもありません。 
        「しまった! やつの作戦か!」 
         小六は急いで座敷に戻りましたが、そこにはすでに日吉丸が立っていて、床の間の刀を持ってにっこり笑っています。 
         日吉丸は小六が庭に気をとられているすきに、反対側のふすまを開けて部屋に入って来たのです。 
        「うーむ、お前の勝ちだ。約束通り、その刀はお前にやろう」 
        
       「はい、ありがとうございます!」 
         日吉丸は、飛び上がって喜びました。 
        
        それからも日吉丸は頭の良さで難問を次々と解決していき、どんどんと出世をしていったのです。 
      おしまい 
        
      豊臣秀吉 
        
         
        
       
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