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          福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読 
         
           
         
ふたりになった孫 
      
      
       むかしむかし、ある村に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。 
 おじいさんとおばあさんには、一人の可愛い孫がいます。 
 ところが家が貧乏なので、孫を二里(八キロメートル)ほどはなれた漁師の網元(あみもと→多くの漁師をやとっている、漁師の親方)の家へ奉公(ほうこう→住み込みで働くこと)に出すことになりました。 
 しかし孫は、奉公に行ったその晩に帰って来て、 
「じいさま、おばあさん。 
 おら、網元の家じゃあ、骨がおれてどうにもなんねえ。 
 おら、あそこへ奉公するのはいやだ」 
と、言うのです。 
 おじいさんとおばあさんは、すっかり困って言いました。 
「これ。ただこねるもんでねえ」 
「そうだ。何とかしんぼうして、がんばってくれ」 
 そしてせんべいを食べさせたり、おみやげ持たせたりして、やっと帰したのですが、あくる日の晩になると、また戻ってきたのです。 
 こうして孫は毎晩毎晩帰ってきては、おいしい物を食べて、おみやげを持って帰っていったのです。 
 
 ある日の事。 
 孫が休みをもらったと言って、珍しく昼間に現れました。 
 そこでおばあさんは、孫に注意をしました。 
「なあ、お前。 
 そんなに家に帰ってばかりしては、網元さまに良く思われんよ。 
 つらいだろうが、もっとしんぼうせにゃ」 
 すると孫は、不思議そうな顔をして言いました。 
「じいさま、ばあさま。 
 おら、網元さんに奉公してから、今日、初めて家に帰ってきたんだよ」 
「初めて? 何を言う。お前は毎晩の様に、帰ってくるでねえか」 
「そうだ。そしてごちそうたらふく食べて、みやげまで持って帰るでねえか」 
 おじいさんとおばあさんの言葉に、孫はびっくりです。 
「いんや、いんや、おら、帰って来るのは、今日が初めてだ」 
「???」 
 孫がうそを言う子どもでないことは、おじいさんもおばあさんもよく知っています。 
 おじいさんもおばあさんも孫も、不思議そうに首をかしげました。 
 
 その夜、誰かが家の戸を叩きました。 
 おじいさんが戸口に行くと、 
「おらだ。今帰ったぞ」 
と、いつもの孫の声がします。 
 おじいさんがびっくりして家の中を見ると、孫はおばあさんと話しをしています。 
「こりゃ、たまげた。孫が二人になったぞ。どっちが孫が、本物じゃろか?」 
 おじいさんは、ふと考えました。 
(そう言えば、夜に来る孫は、すこしおかしなところがあった。すると外にいる孫は、化け物かもしれんぞ) 
 おじいさんは、そばにあった天びん棒(てんびんぼう→両端に荷物を引っかけて使う、荷物もちの棒)を持って、用心しながら戸を開けました。 
 すると外の孫は、びっくりして言いました。 
「じいさま、じいさま。おらは、お前の孫だぞ。そないな物を持って、どうするんじゃ」 
「やかましい! わしの可愛い孫は昼間に来て、奥でばあさまと話をしとるわい!」 
 おじいさんが怒鳴ると、今まで孫の姿をしていたものがクルリととんぼ返りをして、一匹のタヌキになりました。 
 そして手を合わせて、 
「じいさまや。かんにん、かんにん」 
と、あやまるのです。 
 その様子を見たおじいさんは、すっかりタヌキの孫も可愛くなって、 
「よしよし。せっかく来たんじゃから、あがっていけ。ごちそうもあるから、たんと食べて行けや」 
「ありがとう」 
 タヌキは礼を言うと、またクルリととんぼ返りをして孫の姿になりました。 
 そして、おじいさんとおばあさんと本当の孫とタヌキの孫は、みんな仲良く晩ご飯を食べたのでした。 
      おしまい 
        
         
        
       
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