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      福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読 
       
        
       
入らず山の鬼婆 
      
      
       むかしむかし、ある山のふもとの村に、キノコ採りの上手なおじいさんがいました。 
         
 秋のある日、おじいさんはかごを背負って、いつもの山へキノコ取りに出かけました。 
 けれど他の人が取った後らしく、キノコはまったく見つかりません。 
「せっかく来たのに、このまま手ぶらで帰るのもくやしいな。 
 ・・・そうじゃ、入らず山へ行ってみよう。 
 あの山には鬼婆がおるというが、明るいうちに帰ればどうという事もあるめえ」 
 おじいさんが入らず山へ入ってみると、シメジでも、シイタケでも、マイタケでも、そこら中に生えています。 
「これはすごい。誰も取らんから、キノコがいくらでも生えておるぞ」 
 おじいさんが夢中でキノコを採っているうちに、日が暮れてしまいました。 
「さて、かごがいっぱいになったはいいが、こうも暗くては帰り道がわからんぞ。・・・仕方ない。一晩泊まっていくか」 
 おじいさんはたき火をおこすと、そのたき火でキノコをあぶって食べ始めました。 
 するといきなり、鬼婆が現れたのです。  
「やい。おらにも食わせろ!」 
 鬼婆は二本の角が生えたぼさぼさの白髪頭に、まっ赤に光る大きな目玉、そして耳まで裂けた大きな口にギザギザの歯が生えています。 
「へっ、へい、ただいま、焼きますで」 
 おじいさんが震えながらシシタケを取り出すと、鬼婆は怖い顔で言いました。 
「シシタケ! 
 おらでさえ、めったにとれんシシタケを! 
 この入らず山は、おらの山だ。 
 おらの山を荒らして、無事に帰れると思うなよ。 
 足の一本ぐれえは、置いていってもらおうか」 
「そんな、どうかごかんべんを。 
 入らず山には、二度と入りません。 
 シシタケも、ほかのキノコも、全部差し上げますから、どうか見逃してくだせえ」 
 おじいさんがいくら謝っても、鬼婆は許してくれません。 
「さあ、足をよこせ! 右足か? それとも左足か?」 
 その時です。 
 たき火がパチッとはねて、鬼婆の大きな右目に飛び込みました。 
「あちぢちぢっ!」 
 鬼婆が飛び跳ねているすきに、おじいさんは逃げ出しました。 
「まてーっ、逃がしはせんぞー!」 
 鬼婆は右目を押さえながら、ものすごい勢いで追いかけてきます。 
 おじいさんは、ありったけの声を張り上げました。 
「山神(やまがみ)さま〜! どうか、お助けくだせえ〜!」 
 すると空から紫色の雲がすーっとおりてきて、おじいさんをすくい上げてくれました。 
 鬼婆はくやしがりましたが、空の上ではどうする事も出来ません。 
 
 
紫色の雲はおじいさんを家まで運ぶと、また空へと戻っていきました。 
「山神さま、ありがとうごぜえます!」 
 命拾いをしたおじいさんは、それから山へ行くたびに、お礼のお供え物を持って行きました。 
 でも入らず山には、二度と行かなかったそうです。 
      おしまい 
         
         
        
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