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      福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読 
       
        
       
ヘビ女房 
      
      
       むかしむかし、炭焼きが仕事の男がいました。 
 心優しい男ですが、お嫁さんがもらえないほどの貧乏です。 
 
 ある日の事、男が炭焼きがまに火を入れると、かまの中に大きなヘビが入っていたのです。 
「あっ、これは大変だ!」 
 男はすぐに火を消すと、かまの中にいたヘビを助けてやりました。 
「大丈夫か? もう少しで、焼け死ぬところだったぞ。・・・おっ、そう言えばお前、山でよく見かけるヘビだな。まあいい、もう二度と、かまに入ってはならねえぞ」 
 男はヘビを、草むらに逃がしてやりました。 
 
 その夜、男の家に、美しい娘がたずねてきました。 
「わたしは、あなたを山でよく見かけていました。お願いです。どうかあなたの嫁にしてください」 
「それはうれしいが、わしは見ての通りの貧乏だぞ」 
「はい。貧乏でも構いません」 
「そうか、それなら喜んで嫁にしよう」 
 こうして娘は、男のお嫁さんになったのです。 
 
 お嫁さんはとても働き者で、二人の暮らしはだんだん豊かになっていきました。 
 やがてお嫁さんのお腹に赤ん坊が出来て、男はとても幸せでした。 
 そしていよいよ赤ん坊が生まれるという時、お嫁さんは男に言いました。 
「今から赤ん坊を生みますが、わたしが呼ぶまでは、決して部屋をのぞかないでください」 
「わかった。約束しよう」 
 けれど赤ん坊の元気な泣き声が聞こえると、男は思わず部屋の戸を開けてしまったのです。 
「あっ! ・・・お前は」 
 男は、びっくりしました。 
 なぜなら部屋いっぱいに大蛇がとぐろをまき、そのまん中に生まれたばかりの赤ん坊をのせて、ペロペロとなめていたのです。 
 すぐに人間の姿に戻ったお嫁さんは、悲しそうに言いました。 
「あれほど、見ないでとお願いしたのに。 
 ・・・わたしは、炭焼きがまの近くの池に住んでいたヘビです。 
 あなたが好きで嫁になりましたが、正体を見られたからには、もう一緒にはいられません。 
 赤ん坊が乳をほしがったら、この玉をしゃぶらせてください。 
 わたしは、山の池に帰ります」 
 お嫁さんは赤ん坊と水晶の様な玉を置くと、逃げる様に姿を消しました。 
 
 赤ん坊は母親が残した玉をしゃぶって、すくすくと育ちました。 
「母親がいないのに子どもが育つとは、不思議な玉だ」 
 やがてこの話はうわさになって、ついに殿さまの耳にも届きました。 
「その玉を召し上げろ!」 
 殿さまの家来がやって来ると、玉を無理やり奪っていきました。 
 玉を取り上げられた子どもは、お腹が空いて泣き叫びます。 
 困った男は子どもを抱いて、お嫁さんのいる山の池に行きました。 
「嫁さんよ。どうか出て来て、子どもに乳をやってくれ。あの玉は、殿さまに取られてしまったんだ」 
 すると池の中から、両目をつぶった人間の姿のお嫁さんが現れて、新しい玉を差し出しました。 
「この子が泣くのは、一番切ない。大切な玉ですが、これを持って行ってください」 
 子どもは新しい玉をしゃぶると、たちまち泣き止んで、元気に笑い出しました。 
 
 ところがその玉も、また殿さまに取り上げられてしまったのです。 
 お腹の空いた子どもは、また泣き叫びます。 
 またまた困った男は池に行くと、その事をお嫁さんに話しました。 
 するとお嫁さんは、悲しそうに両目をつぶったまま言いました。 
「実はあの玉は、わたしの目玉だったのです。二つともあげてしまいましたから、もう玉はないのです」 
「そ、それでは、お前は目が見えないのか? ・・・ああ、何とむごい事を」 
 男は抱いた子どもと一緒に、泣き出しました。 
 するとお嫁さんは、大蛇の姿に戻って言いました。 
「ああ、いとしいあなたやこの子を泣かせる者は許さない。 
 わたしは今から、仕返しをします。 
 はやく、高いところへ行ってください。 
 ・・・この子の事は、頼みましたよ」 
 そして大蛇の姿のお嫁さんが池に飛び込むと、池の水が山の様にふくれあがってどんどんあふれ出ました。 
 男は子どもを抱えて、夢中で高い方へと駆け上りました。 
 そして駆け上りながら後ろを振り返ると、池からあふれ出た水がふもとのお城へと流れていきます。 
 そして水は、あっという間に殿さまもろともお城を飲み込み、どこかへと押し流してしまいました。 
      おしまい 
         
         
        
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