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          福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読 
         
        
         
  とっつく、くっつく 
      
       むかしむかし、ある村に与作(よさく)という男がいました。 
   たいへんなこわがりで、長いへちまがぶらさがっているのを見てドッキリ、草がざわついてもドッキリ。 
   ネズミが現れると、腰をぬかして、 
  「おかか、助けてくれろっ!」 
  と、いったしだいです。 
  「やんれ、こんなではこの先どうなるもんだか」 
  と、おかみさんもなげいておりました。 
   ある日、与作は村の寄り合いに出かけましたが、帰りは日もくれて、おまけに雨もふっています。 
  「気味が悪いな。化けもんが出よったら、どうしよう?」 
   ヒヤヒヤのビクビクで、ようやく家にたどりつきました。 
  「やんれ、これでまんず安心」 
   だけれど、この安心がゆだんのもとで、戸口に足を入れたとたん、気味の悪い冷たい手が、与作の首をつかまえました。 
  「ヒェェー! おかか! 助けてくれろっ。おら、化けもんにつかまっちまったあ」 
   おかみさんがよく見ると、屋根の雨粒が、与作の首をぬらしていました。 
  「屋根の雨ん粒やないか。化けもんちゅうもんは、みんなこういうもんだよ、おまえさん」 
  「へええ、化けもんちゅうのは、みな、雨ん粒のことか」 
   さてつぎの日、友だちの作ベえどんに出会いました。 
  「与作どん聞いたか? 川っぷちに毎晩化けもんが出るちゅうこった」 
  「ははん、雨ん粒だな」 
  「なんやらわからんような、恐ろしいやつが、追いかけてきよるんだと」 
   あの晩から、ばけものは雨粒だと思いこんでいる与作は、全然恐くありません。 
  「だらしねえやつらだ。よし、おらがいって、こらしめてやる」 
   与作がその晩、川っぷちに出かけていくと、草の中から気味の悪い声が聞こえてきました。 
  「・・・とっつくぞお、・・・くっつくぞお」 
  (全然こわくねえ。化けもんは、みな雨ん粒だから平気なもんだ) 
   与作は、その気味の悪い声にむかって、 
  「ああ、とっつけや、くっつけや」 
  「・・・とっつくぞお、・・・くっつくぞお」 
  「ええとも、とっつけや、くっつけや」 
   すると草がザワザワとゆれて、まっ黒けの奇妙(きみょう)なやつが出てきて、 
  「そんなら与作どん、おまえにくっつくから、おんぶしろ」 
  「しかたねえな。そら、背中につかまれや」 
   与作が化けものをおんぶして歩きだすと、チャリン、チャリンと音がします。 
  「おまえのからだはばかにかたいな。それにズッシリと重い。のう、雨ん粒おばけ」 
  「そうとも、おらはこれから与作どんの家で暮らすことにしたぞ」 
   与作が化けものを連れて帰ってくると、おかみさんは大喜び。 
  「まあ、おまえさん、こりゃ、まあ!」 
   与作がおんぶしてきたものは大きなかめで、その中にはなんと、ピカピカの小判がギッチリと詰まっていました。 
      おしまい 
         
         
        
       
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