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      将棋がたき 
        横町のいんきょと、表通りのいんきょが、二人で将棋をさしています。 
 どうやら横町のいんきょのほうが、二回続けて負けて、この三回めも負けそうです。 
「待った、待った」 
 横町のいんきょが待ったをすると、 
「いや、待てぬ。これで二回も待ったをしたのだ、もう、だめだ」 
と、表通りのいんきょは、冷たくいいます。 
「もう、一度だけだ、たのむ」 
「いいや、だめだ」 
「そこを何とか、たのむ」 
「だめだったら、だめだ」 
 しまいには、 
「なにをー!」 
「なにぃー!」 
と、いって、将棋盤(しょうぎばん)をひっくりかえすしまつ。 
「もうおまえとは、一生、将棋はささんぞ」 
 おこって、別れてしまいました。 
 ところが、ふたりとも、その日の夕方にもなりますと、なんとなくそわそわ。 
「あのとき、待ったをしてやりゃあよかった」 
「あのとき、すなおに負けを認めていれば、いまごろは、酒をくみかわして・・・」 
と、しきりに、けんかをしたことがくやまれてなりません。 
 そこで、横町のいんきょは、何とか、なかなおりの方法はないものかと、表通りまでやってきますと、表通りのいんきょも、そわそわ、そわそわと、門を出たり入ったりしております。 
 二人は、ばったりと目があうと、つい、 
「さっきのは、おまえがわるいんだぞ!」 
 もういっぽうも負けずに、 
「いいや、おまえがわるいんだ!」 
「では、どっちがわるいか、将棋できめよう」 
「おお、将棋で決着をつけるぞ!」 
と、いってあがりこみ、さっそく将棋盤をかこんで、さし始めました。 
 将棋好きの人は、だいたいがこんなものです。 
      おしまい 
         
         
        
       
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