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風呂のぬか団子 
広島県の民話 → 広島県情報 
      
      
       むかしむかし、田舎(いなか)のお百姓(ひゃくしょう)さんが、初めて江戸(えど→東京都)へ出てきました。 
「ごめんなさい。今晩、泊めてください」 
 お百姓さんが、宿屋の前でそう言うと、 
「はい、ただいま。さあ、どうぞどうぞ」 
 宿屋の女中(じょちゅう)さんは、お百姓さんを部屋に案内しながら言いました。 
「ご飯を先にしますか? それともお風呂にしますか?」 
「へえ、お風呂に入れてもらいましょう」 
「では、こちらへ」 
 お百姓さんは女中さんに案内されて、お風呂場へいきました。 
 お風呂場には、ぬかと塩がおいてありました。 
 むかしは石けんも歯ブラシもなかったので、ぬかで顔を洗い、塩で歯をみがいたのです。 
 でも、このお百姓さんは、そんな事は知りません。 
「はあ、これはきっと、ぬかダンゴを作って食べろというんだな」 
 そう思い、ぬかに塩を入れて水でねり、ダンゴを作って食べました。 
「こりゃうまい。こいつは、なかなか上等なぬかじゃ」 
 お百姓さんは、ぬかダンゴをすっかり食べてしまいました。 
 さて、お風呂からあがって部屋にもどると、女中さんがご飯を持ってきました。 
 それを見て、お百姓さんが言いました。 
「おら、お風呂でぬかダンゴを食ったから、もう、お腹がいっぱいじゃ」 
「えっ? ぬかダンゴ?」 
「ああ、とてもうまかったよ」 
 女中さんは、ビックリしました。 
 でも、お百姓さんに恥(はじ)をかかせてはいけないと思って、そのままご飯をさげました。 
(もしかしたら、明日の朝も顔を洗うときに、ぬかを食べてしまうかもしれない) 
 親切な女中さんは、ぬかと塩のかわりに、おもちをおいてあげました。 
 さて次の朝、お百姓さんがお風呂場にいってみると、どうでしょう。 
 ほかのお客さんは、ぬかを手ぬぐいにつつんで顔を洗っているのです。 
「なんと、ぬかは顔を洗うもんだったか。こりゃ、とんでもない恥(はじ)をかいてしまった」 
 さて、お百姓さんが顔を洗おうとすると、目の前におもちがおいてあります。 
「よし、今度はまちがわないぞ」 
 お百姓さんはおもちを手ぬぐいにつつんで、ごしごしと顔を洗いました。 
 するとおもちがとけて、顔にベタベタとつきました。 
 それでもお百姓さんは、うれしそうに言いました。 
「やれやれ、今日は恥をかかずにすんだわい」 
 ところが顔は、おもちだらけです。 
 それを見た女中さんは、とうとう腹をかかえて大笑いしました。 
      おしまい 
         
         
        
       
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