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ものを言うネコ 
京都府の民話 → 京都府情報 
      
       むかしむかし、山城の国(やましろのくに→京都府の南部)に清養院(せいよういん)という、お寺がありました。 
 ある夏の夜の事、お腹をこわした和尚(おしょう)さんが便所に入っていると、庭の木戸(きど→庭や通路の入口などにもうけた、屋根のない開き戸の門)から、 
「これ、これこれ」 
と、呼ぶ者がいます。 
(はて? いまごろ、だれがたずねてきたのか?) 
 不思議に思った和尚さんが窓から外を見てみると、部屋の中から和尚さんの飼っているネコがかけだしてきて、庭へと飛び降りました。 
 そしてネコはあわてて木戸のところへ行くと、カギをはずします。 
 すると、一匹の大きなネコが現れて、 
「こんばんは」 
と、人間の言葉でしゃべったのです。 
(ネコがしゃべるなんて!) 
 和尚さんがびっくりしていると、大ネコはお寺のネコの案内で部屋に入っていきました。 
 和尚さんが便所の中で、じっと耳をすましていると、大ネコがいいました。 
「今夜、町で踊りがあるから、一緒に行かないか?」 
「うん、そいつはおもしろそうだ。・・・でも、うちの和尚さんの具合が悪いので、今夜は行けないよ」 
「うーん。そいつは残念だな。では、すまないが手ぬぐいを一本貸してくれないか」 
「ごめん。その手ぬぐいも、和尚さんがひまなく使っているので、持ち出すわけにはいかないよ」 
「そうか。・・・それじゃ、今夜はあきらめるとするか。おじゃましたな」 
「ごめんね。せっかくさそってくれたのに」 
 お寺のネコは大ネコを庭の木戸まで送っていくと、再び部屋に戻っていきました。 
(わしの病気を心配して遊びにも行かないとは、なんてやさしいネコなんだ) 
 和尚さんはうれしくなって、便所を出るとすぐに部屋へ戻りました。 
 ネコは和尚さんの布団の横で、じっとうずくまっています。 
 和尚さんは、ネコの頭をなでながら言いました。 
「わしの事なら、もう大丈夫。気にしないでお前も踊りに行ってこい。この手ぬぐいをあげるから」 
 和尚さんは、手ぬぐいをネコの頭にのせてあげました。 
 するとネコは何も言わずに、外へ走っていきました。 
 そして二度と、戻っては来ませんでした。 
 ネコがいなくなって、和尚さんはがっかりです。 
 そして、この事を物知りな老人に話したら、 
「それは、ネコがしゃべるのを和尚さんに聞かれてしまったからですよ。ネコはしゃべるようになると、飼い主をかみ殺すと言いますからね。でもそのネコは、よっぽど和尚さんを大切に思っていたので、だまって出ていったのですよ」 
と、教えてくれたそうです。 
      おしまい 
         
         
        
       
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