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      福娘童話集 > お話し きかせてね > きょうの世界昔話 
       
          
         
リップ、バン、ウィンクル 
アメリカの昔話 → アメリカの国情報 
      
      
       むかしむかし、アメリカのハドソン川の近くの村に、リップ・バン・ウィンクルという男がすんでいました。 
   リップは、うちのしごとをするのが大きらいで、いつも村のなかをプラブラしていました。 
   ですから、リップの家は村でいちばんびんぼうで、リップの息子や娘たちは、ボロボロの服をきていました。 
   リップのおかみさんは、ひまさえあると、 
  「このなまけもの!」 
  と、リップをどなりつけていました。 
   おかみさんにしかられると、リップはコソコソと家をにげだします。 
   そして鉄砲(てっぽう)をかたにかつぎ、ウルフというイヌをつれて山へかりにでかけるのです。 
   ある日、リップはウルフと山のなかをはしりまわっていましたが、いつのまにか、けわしい山にまよいこんでしまいました。 
   リップとウルフは、草の生えた丘にこしをおろしてやすみました。 
   まもなく、夕ぐれです。 
   リップの村は、ずっととおくに小さくかすんで見えます。 
   家ではおかみさんが、はらをたててまっていることでしょう。 
   そのとき、だれもいない山の谷ぞこから、 
  「おーい。リップやーい」 
  と、よぶこえがしました。 
   ききちがいかなと、リップが思ったとき、また谷ぞこから、 
  「おーい。リップやーい」 
  と、はっきりきこえてきました。 
   谷を見おろすと、だれかがおもそうなものを背中にかついで、谷川をのぼっています。 
   ウルフは、なぜかこわそうに、リップにからだをよせてきました。 
   リップはしんせつな男でしたから、てつだってあげようと思って、谷をかけおりました。 
   谷川をのぼっている人を見て、リップはビックリしました。 
   白いあごひげを胸までたらした、リップの知らないおじいさんです。 
   きている服もかわっていて、なんだか、むかしの人がきていた服のようです。 
   おじいさんは、酒の大きなタルをかついでいました。 
   リップがちかづくと、「いっしょにはこんでくれ」と、あいずをしました。 
   おじいさんとリップは酒ダルをかついで、水がかれた谷川をのぼっていきました。 
   しばらくすると、 
   ゴロゴロゴロー!、 
   カミナリの音が、ひびいてくるようになりました。 
   まもなく谷川がゆきどまり、高いがけにかこまれた広場に出ました。 
   二人は、そのなかへはいっていきました。 
  「あっ!」 
   リップは、おどろきの声をあげました。 
   広場では、おじいさんたちがおおぜいで、ボーリングをしてあそんでいます。 
   カミナリの音と思ったのは、じつはボーリングのボールをころがす音だったのです。 
   おじいさんたちはみんな、むかしの服をきて、こしには小刀(こがたな)をさしています。 
   長い白いひげをたらし、はねかざりのついたぼうしや、とんがりぼうしをかぶった人もいました。 
   みんなはボーリングをやめて、リップをジロリと見ました。 
   みんな、死人のようにあおい顔ばかりです。 
   リップはおそろしくなって、ガタガタとふるえました。 
   いっしょに来たおじいさんは、酒ダルから大ビンに酒をつめかえました。 
   そして酒をついでまわるようにと、リップにあいずをしました。 
   リップがコップに酒をつぐと、みんなはだまったまま、ゴクンゴクンとのみほします。 
   それからまた、ボーリングをはじめました。 
   リップは酒が大好きだったので、おじいさんの目をぬすんでひと口のんでみました。 
   するとその、おいしいこと。 
   たちまち、二はい、三ばい、と、のんでいるうちに、よっぱらってしまいました。 
   そしていつのまにか、ぐっすりと、ねむってしまったのです。 
   朝になり、リップが目をさますと、あのおじいさんとはじめてあった丘の上でねていました。 
  「ウルフ、ウルフ」 
   リップがイヌの名をよびましたが、どこからも出てきません。 
   足もとに鉄砲がころがっていましたが、それはリップのあたらしい鉄砲ではなく、茶色にさびたボロボロの鉄砲でした。 
  「あのじいさんどもに、イヌと鉄砲を取られてしまった」 
   腹を立てたリップは、きのうの広場へでかけることにしました。 
  「よいしょっ」 
   立ちあがろうとしますと、からだのぐあいが悪いのか、力がぬけたような感じです。 
  (まだ、酒によっているのかな?) 
   リップは、谷川へおりていきました。 
   すると、どうでしょう。 
   きのうまでかれていた谷川に、水がごうごうとながれており、谷川をのぼっていくことができません。 
   とおまわりをして、なんとかリップは村へもどりましたが、じぶんの家がどこにあるのかわかりません。 
   それというのも、たった一晩のあいだに家がものすごくたくさんふえて、村のようすが、すっかりかわっているのです。 
   そのうえ、村にはリップが知っている人が一人もいません。 
   なんとかして、やっとリップの家がみつかりました。 
   けれども庭には草がボウボウとはえ、屋根も庭もこわれかけています。 
  (これはいったい、どうしたことだ? ・・・そうだ、家族たちはぶじか!) 
   リップは家のなかへとびこみましたが、なかには、おかみさんも息子も娘も、だれもいません。 
   リップは家をとびだし、村のなかをあるきまわりました。 
   まもなくリップは、村の人びとにとりかこまれました。 
   そしてその中の一人が、リップに聞きました。 
  「鉄砲などもって、どうしたのじゃ? おじいさん、あんたはどこのだれかね?」 
  「おじいさん? なにをいう。わたしはまだ、わかいですよ」 
   リップがいうと、人びとはリップの胸のあたりをゆびさして、わらいあうのです。 
   リップも、じぶんの胸を見ました。 
   すると、どうでしょう。 
   いつのまにか、長くて白いひげが胸までのびているではありませんか。 
   何と、知らない間に、リップはおじいさんになっていたのです。 
  「そっ、そんな! ・・・だれか、だれかリップ・バン・ウィンクルを知っている人はいませんか?」 
   リップはすっかりおどろいて、大声でさけびました。 
   そのとき、わかい女が赤ん坊をだいてすすみでました。 
  「それはわたしの父です。二十年もまえ、山へいったまま、かえってきませんでした」 
   リップは娘のところへかけよると、さけびました。 
  「わたしが、そのリップだよ!」 
   リップは、人びとにきのうのできごとをはなしました。 
   すると、ひとりの老人がいいました。 
  「おまえさんが出あったのは、むかしこのあたりを探検(たんけん)した、ハドソン船長たちのゆうれいにちがいない。二十年ごとにかならず見まわりにくるという、いいつたえがあるんじゃ」 
  「・・・そんな」 
   おどろいたことに、リップがねむっているあいだに、二十年もたっていたのです。 
   それからリップは娘の家にひきとられて、しあわせにくらしました。 
      おしまい           
         
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