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二本のロウソク 
アンデルセン童話 → アンデルセンについて 
      
       
      
      
       むかしむかし、ある家のテーブルの上に、二本のロウソクが置かれていました。 
 一本は蜜蝋(みつろう)と言って、とても高価で上等なロウソクでした。 
 クルクルとねじった細身のデザインが、とってもおしゃれです。 
 もう一本はクジラの油から作られた、安物のロウソクでした。 
 上等なロウソクと違い、ただ丸めただけのおデブさんです。 
 蜜蝋は、自慢げに言いました。 
「ぼくは、ほかのロウソクよりも格好良くて、しかもずっと明るく光るんだ。だからきっと、銀のロウソク立てに置かれるよ」 
 蜜蝋の言葉に、安物のロウソクがため息をつきました。 
「いいなあ。ぼくも君みたいに、客間でパーティーに来る人たちを照らしてあげたいよ。でも、僕が行くところは、せいぜい台所さ」 
 その時、この家の奥さまがやって来て、安物のロウソクを手に取ると台所に持って行きました。 
        
       (やっぱり) 
         安物のロウソクは、がっかりです。 
         台所には、カゴをかかえた小さな男の子が立っていました。 
         そのかごの中にはたくさんのジャガイモと、いくつかリンゴが入っています。 
         奥さまが、男の子に言いました。 
        
       「さあ、このロウソクも持って行きなさい。 
         あなたのお母さんは夜遅くまでお仕事をなさるでしょうから、これが役に立ちますよ」 
         するとそれを聞いた、この家の小さな女の子が言いました。 
        「あら、わたしだって夜遅くまで起きているわ。 
         だって今夜は、ダンスパーティーがあるんですもの。 
         わたし、大きな赤いリボンをつけてもらうのよ」 
         安物のロウソクは、お星さまのようにきらきらと目を輝かす女の子を見て、 
        「わあ。何て可愛い子だろう」 
        と、思いました。 
        「でも、ぼくはもう二度と、この女の子には会えない。 
         蜜蝋くんは、きっと女の子とダンスパーティーを楽しむのだろうけど、ぼくは貧しい家にもらわれていくのだから」 
   
       男の子はカゴにロウソクを入れると、みすぼらしい小さな家に帰りました。 
        
        この家のお父さんはもう死んでしまって、お母さんがぬい物をしながら三人の子どもを育てていました。 
         男の子が、カゴのロウソクをお母さんに差し出すと、 
        
       「まあ、いいロウソクをいただいて」 
        と、お母さんはとても喜んで、安物のロウソクに火をつけました。 
         その時、この家の一番下の女の子が入ってきました。 
         その子はにこにこしながら、お兄さんとお姉さんのところに行くと、 
        
       「あのね、問題だよ。今夜のごちそうは、なーんだ? えへへ。それはね、あったかいジャガイモだよ」 
         女の子はうれしくてたまらないというように、可愛い目をキラキラと輝かせました。 
         安物のロウソクは、その女の子を見てこう思いました。 
        「ああ、さっき見た、お金持ちの女の子と同じ目だ。 
         むこうは豪華なパーティーで、こっちはジャガイモのごちそうだけど、どっちの女の子も同じように幸せなんだなあ」 
   
         やがて、晩ご飯になりました。 
        
       「とてもおいしい、ジャガイモだね」 
        「それに、リンゴまであるんだよ」 
        「神さま、おめぐみありがとうございます」 
        
        にぎやかな食事が終わると、子どもたちはベッドに入って、お母さんからおやすみのキス、してもらいました。 
        「ああ、楽しい夜だったなあ」 
        
        安物のロウソクは、この家族と一緒に幸せな時間を過ごせて、とても満足でした。 
        「もう、蜜蝋くんがうらやましくないや。 
         みんなそれぞれに幸福があって、自分が幸福と感じられれば、それは幸福な事なんだ。 
         だからぼくは、本当に幸福だ。 
        
       ・・・あっ、お母さんがぬい物を始めるぞ。よーし、ぼくも頑張らなくちゃ」 
      おしまい 
          
         
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