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イラスト Hio
リンゴの枝とタンポポ
アンデルセン童話 → アンデルセンについて
野原も木も畑も牧場も、一面にきれいな花が咲いた春のある日、一本のリンゴの木が自慢げに言いました。
「えっへん。見て見て。ぼくは、こんなにきれいになったんだよ」
このリンゴの木には枝が一本しかありませんが、可愛らしいバラ色のつぼみをたくさんつけていました。
「まあ、きれい! なんて見事なリンゴの枝なのでしょう」
ちょうどそこへ、奥さまが馬車で通りかかりました。
「わたくし、こんなに素晴らしい花を見た事がありませんわ」
奥さまはリンゴの枝をやさしく折ると、大切にお屋敷に持って帰りました。
始めて屋敷に入ったリンゴの枝は、大きな屋敷にびっくりです。
「うわ、なんて立派なお屋敷なんだろう」
奥さまは広い屋敷の中の一番素敵なお部屋に入っていくと、リンゴの枝に言いました。
「さあ、今日からここが、あなたのお家よ」
奥さまは新雪を固めて作ったような白い花びんに、リンゴの枝をさしてくれました。
リンゴの枝は、うれしくてたまりません。
「えへへ。ここがぼくの家で、この花びんがぼくの部屋だ」
リンゴの枝は、まっ白なカーテンのかかっている窓の外を見ました。
「やあ、外にはいろんな花が咲いているな」
スミレ、ひなげし、チューリップ、そしてお庭の向こうの野原にはたくさんのタンポポが咲いています。
「でも、ぼくよりきれいな花はいないや。やっぱりぼくが、一番だ」
リンゴの枝はそう思うと、ますますうれしくなりました。
そして、自分が偉くなったように思えました。
「ぼくみたいに大事にかざられる花もあれば、タンポポくんのように、誰にも見向きされない花もあるんだね。かわいそうに」
それを聞いた空のお日さまが、リンゴの枝に言いました。
「リンゴくん、そんな事はないよ。タンポポもすてきだよ」
「まあ、汚いとは言わないけど、このぼくに比べれば」
「なら、よく見ててごらん」
間もなく小さな子どもたちが野原にやってきて、
「あっ、タンポポだ」
と、楽しそうにタンポポで首輪や腕輪をつくりました。
それから、まっ白にわた毛をつけたタンポポを見つけると、
「あっ、いい物を見つけた。いい? よく見ててね。いくよー! フーーッ」
と、大きく息を吹いて遊びました。
それを見たリンゴの枝は、子どもたちと仲良く遊ぶタンポポが少しうらやましくなりましたが、でもお日さまに言いました。
「まあ、あの子どもたちには、タンポポがいいでしょうよ。でも大人たちは、この私の方が」
その時、奥さまが友だちと部屋に入ってきました。
「ゆっくり、ゆっくり。そうっとね」
奥さまは、とても大事そうに何かを持ってきました。
そして気をつけながらリンゴの枝のとなりにさしたのは、なんとタンポポのわた毛の花たばだったのです。
「このわた毛、なんて不思議で、なんて素敵なんでしょう。リンゴの花とはちがうけれど、どっちもとってもきれいだわ」
奥さまの言葉に、お日さまはにっこり笑って言いました。
「ほらね。リンゴくん、わかっただろう?」
「・・・うん」
リンゴの枝は恥ずかしそうに、小さくうなずきました。
おしまい
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