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最後の真珠

最後の真珠
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 むかしむかし、あるお金持ちの家で子どもが生まれ、家中が幸せに包まれていました。
 絹(きぬ)のカーテンをひいた部屋には、お母さんと子どもがぐっすりと眠っています。
 子どもの上には真珠を散りばめた、アミの様な物が広げてありました。
 それは親切な妖精たちが持ってきた幸福の贈り物で、一つ一つの真珠が『健康な体』や『おいしいごちそう』や『楽しい遊び』や『仲の良いお友だち』などを現しているのです。
 この家を守っている神さまが、にっこり笑って言いました。
「これで、全部の贈り物がそろいましたね」
 すると、子どもを守る神さまが答えました。
「いいえ、まだ一人の妖精が、贈り物を持ってきていません。最後の真珠が足りないのです」
「何と言う事だ。この子の幸福に、足りない物があってはならない。今すぐに、その妖精を探さなくては」
 家を守る神さまの言葉に、子どもを守る神さまが落ち着くように言いました。
「そんなにあわてなくても、いつか必ず来ますよ」
「いいや、待っているぐらいなら、わたしが取りに行こう。どこへ行けば、良いのだ?」
 すると子どもを守る神さまは、仕方なく言いました。
「そこまで言うのなら、最後の妖精のいるところへ連れて行ってあげましょう」
 子どもを守る神さまは、家を守る神さまの手を取って飛んで行きました。
 そして飛びながら、最後の妖精の事を言いました。
「最後の妖精は、決まったところにいません。王さまの家にも、貧しい人の家にも、誰の家にも必ず最後の贈り物を持って行くのです。確か今は、この辺りの家に来ているはずです。・・・ああ、ここです」
 子どもを守る神さまが案内したのは、町外れのお屋敷の大きな暗い部屋でした。
 その部屋には、お父さんと子どもたちだけしかいません。
 一番小さい子は、お父さんに抱かれています。
 実は、この家のお母さんがたった今、病気で死んでしまったのです。
 子どもたちのほっぺたは涙にぬれて、しくしくと泣く声が部屋を包んでいます。
 家を守る神さまが、子どもを守る神さまに言いました。
「ここには、いい贈り物を持っている、最後の妖精はいませんね」
「いいえ、ここにいますよ」
 子どもを守る神さまは、部屋のすみを指差しました。
 それは、お母さんが子どもたちをひざに乗せて、歌を歌って遊ばせていた椅子です。
 その椅子には、見知らぬ女の人が長い服を着て腰かけています。
 子どもを守る紳さまは、そっと言いました。
「あの人が最後の妖精、悲しみの妖精です」
 その時、悲しみの妖精の目から涙がひとしずくこぼれ落ちて、みるみるうちに七色にかがやく真珠(しんじゅ)になりました。
 子どもを守る神さまは、その真珠をすくい取って言いました。
「この真珠は、悲しみです。これであの子どもの贈り物は、全部そろいました。人は悲しみを知ると本当の幸福がわかるようになり、自分にも他の人にもやさしくしてあげられるのです。それが、最後の真珠なのです」
 子どもを守る神さまと家を守る神さまは真珠を手に乗せると、子どもの眠る家へと飛んで帰りました。

おしまい

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