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      福娘童話集 > お話し きかせてね > きょうの世界昔話 
         
          
       
もみの木 
アンデルセン童話 → アンデルセン童話の詳細 
      
      
       むかしむかし、ある森の中に、小さいもみの木がありました。 
「あっ、ぼくの頭の上をまた、ウサギがとびこした。いやだな、はやく大きくなりたいな」 
 もみの木は、上を見あげては大きい木をうらやましいと思いました。 
 お日さまが、それを見ていいました。 
「あせらないでもいいよ。いつかいやでも大きくなるさ。それよりも、若い時をだいじにするといいよ」 
 でも、小さいもみの木には、その意味がよくわかりません。 
 クリスマスが近づくと、森の若い木が、つぎつぎにきられました。 
「ねえ、スズメさん、あの木たちはどこへいくんだい?」 
「あれは、クリスマス・ツリーになるのさ。キラキラしたモールや玉でかざられて、そりゃあ、きれいになるのさ」 
「ふうん。ぼくも、はやくそんなふうになりたいなあ」 
 それを聞いて、お日さまはいいました。 
「このひろびろとした森で、おまえは若い時を、楽しんでおくといいよ」 
 やがて、もみの木は大きくなり、美しいえだをひろげました。 
 とうとう、ある年の冬、きこりがこのもみの木に目をとめました。 
「やあ、クリスマス・ツリーにぴったりだ」 
 もみの木はきられて、町に運ばれ、ある家に買われました。 
 絵やおき物のあるりっぱな広間に、もみの木はおかれました。 
「さあ、ツリーをかざろう、きれいにかざろう」 
 子どもたちのはしゃぐ声が聞こえます。 
 もみの木は、むねがドキドキしてきました。 
「あっ、鈴がついたぞ。ロウソクもともった。サンタクロースの人形もいる。星もあるぞ」 
 自分につけられるかざりに、もみの木は目をみはりました。 
「メリー・クリスマス!」 
 子どもたちは、ツリーのまわりで歌ったり、おどったり、そのにぎやかなこと。 
 そして、みんなでクリスマスプレゼントのつつみをひらきました。 
「わあい、いいな、うれしいな」 
「これ、わたし、ほしかったの」 
 しばらくして、子どもたちは、ツリーのかざりもわけてもらいました。 
 鈴だの、モールだの、それぞれがすきなものをもらいました。 
 つぎの朝、この家の使用人が、えだだけになったもみの木を屋根裏部屋にかたづけました。 
「暗いし、ひとりでさびしいな。それに寒い」 
 もみの木が、ブルッと身ぶるいした時です。 
 ネズミがとび出してきました。 
「あっ、もみの木さんだ。クリスマスはおわったのね。ぼくたちに昨日の話を聞かせてよ」 
「うん、じゃあ、聞いてね」 
 もみの木は、少し元気が出てきました。 
 クリスマスの話をいろいろしたあと、自分が育った森のこともはなしました。 
「おもしろいね。それで? それから?」 
 ネズミたちは、熱心に耳をかたむけました。 
 でも、いく日かすると、あきてきて、 
「もっとベつの話がいいよ。ベーコンやチーズがあるところはどこかとか」 
「そんなことは、ぼく、知らないんだ」 
「つまんないの、じゃあね」 
 ネズミたちは、どこかへいってしまいました。 
 もみの木は、また、ひとりぼっちです。 
 ある日、使用人が屋根裏部屋にあがってきました。 
 もみの木は、ひきずられて中庭へ出されました。 
「ああ、花がさいている。鳥も歌っている。やっぱり外の空気はいいなあ。何かいいことが、おこりそうだ」 
 もみの木は喜びましたが、それどころではありません。 
 もみの木は、コーン、コーンと、いきなりオノできられて、まきにされてしまったのです。 
 まきになったもみの木は、台所のかまどにくベられて、パシパシともえはじめました。 
「ああ、何もかもおしまいだ。お日さまが若い時をだいじにしろといったのは、こういうことだったんだ」 
 もみの木は、ふかいため息をつき、音をたててもえていきました。 
      おしまい 
         
         
        
       
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