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2015年 7月 6日の新作昔話

化け物屋敷をもらった侍

化け物屋敷をもらった侍

 むかしむかし、武芸にも学問にもすぐれた浪人が、殿さまに召し抱えられて屋敷をもらいうけました。
 でもそれがひどいオンボロ屋敷で、しかも化け物が出るというのです。
 それを聞いた仲間の侍が気の毒がって、
「まったく、とんでもない物をもらったな。どんな奴でも一晩で逃げ出すか、化け物に食い殺されていまうというぞ。なあ、殿さまに屋敷を変えてもらったらどうだ?」
と、すすめました。
 けれど、侍は、
「いやいや、化け物を恐れて屋敷替えを願い出るなんて、武士の恥だ。それよりも、むしろ自分から進んでこういう屋敷に住んでこそ、武士の株があがるというものだ」
と、言って、さっさと屋敷へ出かけていって、荒れ果てた屋敷の修理を始めました。
 そして、
「まずは一晩泊まり、化け物の正体を見届けた上で、引っ越しをしよう」
と、座敷で一人静かに、本を読み始めました。
 するとその夜、
 ズシーン! ズシーン!
と、大きな足音をとどろかせて、身の丈が二丈(にじょう→約六メートル)もある大入道がやってくると、
 ドン! ドン! ドン!
と、乱暴に門を叩いて言いました。
「開けろ! 開けねば、門をぶちこわすぞ!」
 しかし侍は、慌てずに言いました。
「夜中に無礼な! どこのだれか、名を名乗れ!」
「わしがだれか、そんな事は関係ない。開けろといったら開けるのだ。開けないと、ここを蹴破るぞ! お前は刀を持っているようだが、わしの体は刀では切れぬぞ!」
 それを聞いた侍は、
(ふん! 化け物なら門を開けなくとも、自分から入って来ればいいだろうに)
と、思いながらも、これから住む屋敷の門を壊されてはかなわないと、仕方なく門を開けてやりました。
 すると入ってきたのは大入道ではなく、薄汚い身なりをした小さなおじいさんだったのです。
 おじいさんは座敷にあがってあぐらをかくと、身の上話しを始めました。
「やあ、さっきはおどろかしてすまんかったな。わしはこの屋敷の土地神じゃが、粗末にされ続けて、今ではごらんのありさまだ。そこで腹いせに、住む者をおどかしてきたのだが、しかしお前は、心正しく見所がある」
 ほめられた侍は、少し照れながら言いました。
「いや、それほどではありません。武士として、当然の事です」
「そういうところが、立派なのじゃ。ところで、折り入って頼みがある。実はな、庭のすみにわしのほこらがあるのだが、もうボロボロでな。すまんが大工に頼んで、ちゃんとした物に直してもらいたい」
「ほこらをですか?」
「そうだ。・・・ああ、そうそう、大工に頼む金なら、松の木の根元にうずめてあるぞ。では頼んだぞ」
 土地神のおじいさんはそういうと、すーっと、煙のように消えてしまいました。
 翌朝、侍が松の木の根元を掘ってみると、大判小判がたくさん詰まった箱が出てきました。
 そこで侍は大工をよんで、ほこらを立派に立て直すと、それから化け物は出てきませんでした。
 そしてこの話をきいた殿さまは、
「あっぱれじゃ。お主こそ、武士のほまれである」
と、侍をほめて、たくさんのほうびを与えたということです。

おしまい

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