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福娘童話集 > きょうの新作昔話 >ハチの恩返し
2015年 9月28日の新作昔話
ハチの恩返し
むかしむかし、ある長者の娘が年頃になったのですが、なかなか娘婿にふさわしい男が見つからないので、長者はこんな立て札を家の前に立てました。
《娘の婿にふさわしい男を望む》
するとさっそく娘の婿になりたいと申し出る男がいたので、長者は握り飯を四つ持たせると、お堂の掃除を言いつけました。
男は四つの握り飯を受取るとお堂に行きましたが、男はそれっきり戻ってはきませんでした。
しばらくするとまた別の男がやって来て、娘の婿にしてほしいというので、長者は握り飯を四つ持たせてお堂にやったのですが、この男も戻ってはきませんでした。
さて、ある日の事、貧乏な男が山を散歩していると、一匹のハチがクモの巣に引っかかっているのを見つけました。
ハチを可愛そうに思った男は、そのハチをクモの巣から助けてやりました。
するとハチは男の耳元で、こう言ったのです。
「この先に住む長者が、娘婿を探していますよ。行ってごらんなさい。ブンブンブン」
そこで男は長者の家に行き、三人目の娘婿として名乗り出たのです。
長者はこの男にも、同じように握り飯を四つ持たしてお堂に行かせました。
そして男がお堂の掃除をしていると、お堂の奥から黒い霧の様な物が出て来て、男を襲おうとしたのです。
そこで男は握り飯を半分ちぎって霧に投げてやると、霧はその握り飯をムシャムシャと食べ始めました。
霧は食べ終わると、また襲ってきたので、男は残りの半分を投げてやりました。
そうやって霧が襲ってくる度に握り飯を半分ずつ投げてやり、男はようやくお堂の掃除を終えました。
男が無事に戻ってきたので、長者は次に一本のワラを手渡して、これで馬を買ってくるようにと言いつけました。
一本のワラで馬が買えるはずがありませんが、男は言われた通り一本のワラを持って、町へ出かけました。
男が歩いていると、ホウの木の葉をひもでくくりもせずに売り歩く者がやってきました。
男はホウの葉売りにワラを渡すと、
「これでくくっておけば、歩きやすいでしょう」
と、教えてやりました。
するとホウの葉売りは喜んで、売り物の葉を二枚、男にくれたのです。
こうして男がホウの葉を二枚持って歩いていると、向こうから三年味噌売りがやって来ました。
見ると味噌の桶にフタもせずに歩いているので、男は味噌売りにホウの葉を与えて、
「これでフタをすればゴミも入らず、味噌の香りも良くなるでしょう」
と、教えてやりました。
すると三年味噌売りは喜んで、売り物の味噌を丸めて男にくれたのです。
こうして男が味噌の玉を持って歩いていると、ある立派な家の主人が病気で困っているのに出会いました。
医者が言うには、主人の病気は三年味噌を食べなければ治らないというのです。
そこで男が家の主人に三年味噌を差し出すと、主人は三年味噌を食べてたちまち元気になりました。
そして主人はお礼にと、一頭の立派な馬を男にくれたのです。
こうして男が一本のワラで馬を手に入れたので、長者は、
「では今度は、屋敷の裏の竹林に竹が何本あるか、日が暮れるまでに数えてみろ」
と、言ったのです。
男が竹林に行ってみると、そこにはあまりにも多くの竹が生えていて、とても日が暮れるまでに数える事が出来ません。
するとそこへ、以前助けてやったハチが飛んできて、
「一万三千三百三十三本。ブンブンブン」
と、男に教えてくれたのです。
男が長者にそう答えると、みごとに正解でした。
そこで長者は、今度は同じ着物を着た三人の娘を連れてきて、男にこう尋ねました。
「この中の一人がわしの娘で、ほかの二人は家の手伝いだ。見事に娘を言い当てたら、娘の婿にしてやろう」
でも三人とも始めて見る娘なので、どの娘が長者の娘かわかりません。
男が途方にくれていると、またハチが飛んできて、男の耳元でこうささやきました。
「真ん中が娘だ。ブンブンブン」
男は小さく頷くと、長者に言いました。
「真ん中の娘さんが、長者さまの娘さんです」
「うむ、見事! では約束通り、娘の婿に迎えよう」
こうして男は、この家の娘婿となり、幸せに暮らしたということです。
おしまい
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