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2016年 8月29日の新作昔話

天狗の土俵場

天狗の土俵場

 むかしむかし、ある山ぞいの道の片側に広がっている田んぼに、大きな大きな岩がありました。
 言い伝えでは、ずいぶん前の大洪水の時に大蛇が運んできた物で、岩の上が平らになっていて相撲もとれそうな所から、『天狗の土俵場』とも呼ばれていました。
 この道は昼間は村人たちがよく通りますが、夜になると人通りは全くありません。
 それというのも、夜になるとその大岩に数人の小人が現われて、ぺちゃくちゃとおしゃべりを始めたり、ちょうちんを持った村人が通りかかると、いっせいに取り囲んで村人の顔をのぞき込んだりするからです。
 そして村人が悲鳴をあげると、ちょうちんの灯りをふうーっと消して、小人たちは大岩の回りを踊りながら、
♪ちんちんちょぼし
♪夜もふけそーろ
♪御殿坊(ごてんぼう)も
♪お帰り申そう
と、歌い続けるのです。

 ある夜の事。
 一人の女が大岩の近くを通りかかると、いつものように小人たちがおしゃべりをしていました。
 気の強い女は怖がるどころか、、つい面白がって小人の歌を先に歌い始めました。
♪ちんちんちょぼし
♪夜もふけそーろ
♪御殿坊(ごてんぼう)も
♪お帰り申そう
 すると、あたりは急に静まりかえって、小人たちの姿も消えていました。
「あははははっ、なんだい。逃げていったよ」
 女が満足そうに笑った時です。
 いきなり女の目の前に、大入道が現れました。
「我らのうたげを邪魔したのは、お前か!」

 次の朝、首のない女の死体が田んぼの中に転がっているのを見つけた村人たちは、大岩のそばにお地蔵さまを立てて、女の成仏を祈ったということです。

おしまい

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