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2016年11月28日の新作昔話

オオカミの眉毛

オオカミの眉毛
日本昔話

 むかしむかし、あるところに、とても心優しい男がいました。
 心優しい男は悪い人にだまされて借金を背負い、とても貧乏な暮らしをしています。
 食べる物を買うことも出来なくなった男は、ちょうど夕ご飯が終わった頃になると近くの家へ鍋を借りに行くのでした。
「たびたびすみませんが、鍋を貸していただけませんか?」
「構わないけど、まだ鍋を洗っていないんだ。もう少し待ってくれるか?」
「いえ、おかまいなく。こちらで洗ってお返ししますから」
 こうして男はまだ洗っていない鍋を借りては、きれいに洗って返しに来るのです。

 ある日の事、男があんまり鍋を借りに来るので、鍋を貸した家の人がこっそり男の様子を見に来ました。
 すると男は洗っていない鍋にお湯をそそいで鍋をこすり、その洗い汁を夕ご飯に飲んでいるのでした。
 その事は村中に広まり、どの家も鍋を貸してくれなくなりました。
 子供たちにも、
「やーい、貧乏人。やーい、鍋こすり」
と、悪口を言われる始末です。
 男は自分の生活が、情けなくなりました。
(子供たちにからかわれても仕方が無い。人様が食べた後の鍋をこすって生きているなんて、なんと恥ずかしい生き方だろう。これ以上、恥をさらしながら生きたくない)
 男は今まで鍋を貸してくれた家々に、お別れのあいさつに行きました。
「今まで、お鍋を貸してくださってありがとうございました。私はこれから、遠いところに旅立ちます。お目にかかるのもこれで最後ですが、今まで良くしてくださったご恩は決して忘れません」
 すると最後に鍋を貸してくれた、男が鍋をこすって洗い汁を飲んでいると村中に言いふらした男が、自分のした事が気まずくなって男にお米を分けてくれました。
 男は頭を深く下げると、そのお米をありがたく頂きました。

 家に帰った男は人生最後の食事だと、もらったお米でおにぎりを作りました。
 この辺りの山には人食いオオカミがいると言われています。
 男はオオカミに食われて、自分の情けない人生を終りにしようと思ったのです。

 その日の真夜中、男はおにぎりを持って山を登ると大きな木の下に座り、人生最後の食事のおにぎりをゆっくりと味わいました。
 そしておにぎりを食べ終わると、大きな声で叫びました。
「オオカミよ、わしは人様の鍋の洗い汁を飲むような情けない男だ。これ以上、もう生きとうない。どうかわしを食ってくれ」
 すると周りの草むらが、ガサゴソと音を立てました。
(オオカミが来てくれたか)
 男は目をつぶると、オオカミが食べやすい様に大の字になって寝ました。
 ガサゴソの音がだんだん近づいて来て、男の周りを取り囲みます。
(いよいよ、わしの人生は終りだな。出来れば、痛くないように食ってくれよ)
 しかしオオカミたちは男を食べるどころか、その場から離れようとしています。
 男は目を開けると、立ち去ろうとするオオカミたちに言いました。
「オオカミよ、わしを早く食ってくれ。わしは生きていても仕方が無い男だ」
 すると一匹の立派なオオカミが男の前に現れて、男に人間の言葉で言いました。
「我らが食べるのは、心の悪い人間だけだ。お前は貧しいが、その心はとても優しい。だから我らは、お前を食べない」
「でも、わしはこれ以上、生きとうない。情けない生活は嫌じゃ」
 男が泣きながらオオカミに言うと、立派なオオカミは自分のまゆ毛を1本抜いて男に差し出しました。
「このまゆ毛をやるから、自分の村に帰れ」
 立派なオオカミは仲間と一緒に、どこかへ行ってしまいました。
「ああ、わしは村人たちだけでなく、オオカミにも嫌われたか」
 男は仕方なくオオカミの眉毛を持って山を下りると、自分の村に帰るのは恥ずかしいので見知らぬ町へとやってきました。
「さあ、これからどうしようか?」
 男はふと、オオカミにもらった眉毛をかざして道行く人を見てみました。
 すると道行く人が、みんな動物の姿に見えたのです。
 きれいな着物を着て歩いている美しい女の人は、人をだますキツネに。
 店に人を呼び込む商人は、欲張りなタヌキに。
 道のまん中を威張って歩く侍は、どう猛なクマに。
 女の人に声をかけている若者は、頭の悪いイノシシでした。
(このオオカミの眉毛には、人の本性を動物にたとえて見せるのか)
 男がびっくりしていると、道の向こうから町一番の長者がやって来ました。
 この長者はオオカミの眉毛で見ても、まともな人間に見えます。
「ほう、オオカミの眉毛とは、珍しい物を持っておるの。どうやって手に入れたか、良ければ教えてくれないか」
「はい、実は・・・」
 男は今までの事を長者に全て話しました。
 すると長者も男と同じ様に人にだまされて無一文になり、生きる気力を無くして山でオオカミに食べられようと思ったところ、男と同じ様にオオカミの眉毛をもらったそうです。
 そしてこの町にやって来て商売を始め、オオカミの眉毛のおかげで人にだまされる事なく商売を成功させて、今では町一番の長者になったそうです。
 長者は話を終えると、男に言いました。
「ところでお前さんの持っているオオカミの眉毛を、少し貸してはもらえぬか」
 男が眉毛を渡すと、長者はオオカミの眉毛をかざしてあたりを見回しました。
「おやおや、周りは動物だらけだが、お前さんはまっとうな人間のようじゃ」
 長者はオオカミの眉毛を男に返すと、にっこり笑って言いました。
「わしには年頃の一人娘がおって、お前さんの様に心の正しい人間を婿に迎えたいと思っていた。どうじゃ、娘の婿になってはくれまいか」

 こうして男は長者の娘婿になって長者から商売を引き継ぐと、オオカミの眉毛を使って人にだまされる事なく、商売を長者以上に成功させて幸せに暮らしました。

おしまい

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