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2017年 3月20日の新作昔話

カモになった権兵衛

カモになった権兵衛
日本昔話

 むかしむかし、カモ取りをしている権兵衛(ごんべえ)という男がいました。
 権兵衛の住む村の近くには大きな沼があり、秋から冬へかけてたくさんのカモが飛んできます。
 その気になれば何匹でもカモを捕まえる事が出来ますが、この村ではむかしからの決まりで一日に捕っても良いカモは一羽だけでした。
 それは、カモを捕りすぎてカモがいなくなるのを防ぐためでした。

 ある日、権兵衛は考えました。
(カモが捕れる日は百日ほどある。毎日一羽ずつ百羽捕るのも、一日に百羽捕ってあとの九十九日仕事を休むのも、同じ事じゃねえのか?)
 そう思った権兵衛は百個のワナを作ると、夜の間にワナを沼へ仕掛けました。
 権兵衛が木の陰に隠れてワナを見張っていると、カモたちはどんどんワナにかかっていきます。
「これはすごい。もう九十九羽もワナにかかったぞ。あと一羽で、九十九日は寝て暮らせるわ」
 ところが最後の一羽が、なかなかワナにかかってくれません。
 そのうちに夜が明けて、お日さまが顔を出しました。
 お日さまの光に目を覚ました九十九羽のカモたちは、いっせいに飛び立ちました。
 そしてワナにつながった縄を腰に結びつけていた権兵衛は、九十九羽のカモと一緒に空高く引き上げられてしまったのです。
「わあー! 助けてくれー!」
 カモは権兵衛をぶら下げたまま、休むことなく飛び続けます。
 もしこの高さから落ちれば、権兵衛は間違いなく死んでしまいます。
(落ち着け、落ち着けよ、俺。何かうまい方法を考えるんだ。・・・そうだ!)
 権兵衛はワナからカモを少しずつ外してカモを少なくし、ゆっくりと地上に戻ろうと考えました。
 そしてワナを外そうとして間違って自分の腰に付けた縄を切ってしまい、そのまま地面へと落ちていきました。
(もうダメだ! おれはこのまま死んでしまうのか!)
 権兵衛は死ぬことを覚悟しましたが、不思議な事に権兵衛は、いつの間にかカモになって空を飛んでいたのです。
(これは、夢か?)
 しかし夢ではありませんでした。
 カモになってしまった権兵衛は人間にもどる事なく、何日も何日もカモの姿のままでした。

 カモになった権兵衛は自分の家に帰りましたが、どんなに口を開いても人間の言葉がしゃべれません。
(ダメだ、こんな姿で家に帰っても捕まって殺されてしまう。おれはもう、カモとして生きるしかないのか)
 仕方なく権兵衛は家を去り、カモとして生きる事を決めました。

 その夜、権兵衛は沼に行くと、小ブナを食べて腹ごしらえをしました。
 朝までここで体を休めて、他のカモたちと一緒に遠くへ旅立つつもりです。

 やがて朝になり、目覚めたカモたちが次々と飛び立ちました。
(村のみんな、達者でな)
 権兵衛も他のカモたちと一緒に飛び立とうとしましたが、体が何かに引っかかってどうしても飛ぶことが出来ません。
(何だ? 何が引っかかっているのだ。・・・あっ!)
 見てみると、体に引っかかっていたのは権兵衛が百羽のカモを捕まえようとして、一つだけ残った権兵衛のワナでした。
 そのワナは権兵衛特製のワナで、カモの姿では決して外すことが出来ません。
 権兵衛は、とても悲しくなりました。
(ああ、カモにとっては一羽がワナに捕まるだけでも悲しい事なのに、俺は村の決まりを破り、九十九日間寝て暮そうと一度に百羽も取ろうとした。きっと、その罰が当たったんだな。俺はこのままここから動けず、そのうちに誰かに捕まって殺されてしまうんだな)
 権兵衛は自分がしたことを後悔して、ポロポロと涙をこぼしました。
 すると、どうでしょう。
 絶対に外れない特製のワナがポロリと外れて、権兵衛は人間の姿に戻っていたのです。
「ああ、ありがたい。これからは、つつましく生きるとしよう」

 その後、権兵衛はカモ取りをやめてお百姓になり、傷ついたカモを助けたりエサをやったりするなど、カモを大切にしながら暮していきました。

おしまい

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