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ささらと昔話講座 第12話【地獄のあばれもの】
地獄の暴れ者
ささらとゆっくり昔話 第12話【地獄のあばれもの】
むかしむかし、ある町に一人の医者がおりましたが、人の病を治すどころか、自分が病にかかって死んでしまいました。
死んだ人は三途(さんず)の川を渡り、あの世へ行くのですが、良い行いをした人は極楽(ごくらく→天国)に、悪い行いをした人は地獄(じごく)に行くのです。
そして極楽行きか、地獄行きかは、えんま大王が決めるのでした。
医者は、えんま大王に言いました。
「大王さま、わたくしめは医者でございます。生前(せいぜん→生きているとき)は、人々のお役にたったのでございます。どうぞ、極楽へやってくださいませ」
「こら! うそつきめ。お前はにせ医者で、悪どくもうけおったではないか」
「そんな、めっそうもない」
「だまれ! わしに口答えする気か。お前は地獄行きじゃ!」
医者は鬼につまみあげられ、ポイッと放り投げられてしまいました。
「ヒャァーーッ!」
落ちたところは、地獄へと続く道でした。
医者は覚悟を決めると、かたわらの石に腰をおろしました。
「どうせ地獄行きじゃあ。だれか、道づれが来るのを待とう」
さて、次にえんま大王のところへ来たのは、山ぶしでした。
山ぶしは、えんま大王の前に進み出て。
「せっしゃは、人助けの山ぶしというて、世間のわざわいをとりのぞきもうした。間違いなく極楽行きでしょうな」
「うそをつくでない! お前は神仏のたたりじゃというて、なんでもない人々から金をまきあげたじゃろ!」
「と、とんでもない」
「お前は、地獄行きじゃあ!」
山ぶしも、ポイッと放り投げられました。
地獄への道では、医者が待っていました。
「やあ、あんさんも地獄行きで? これで二人になったが、もう一人いれば心強いなあ」
すると山ぶしも、腰をおろして、
「どうせ地獄行きじゃ。あわてる事はない。もう一人来るまで待とう」
さて、次に現れたのは、かじ屋の親父です。
「大王さま、おらは百姓(ひゃくしょう)のカマやクワをたくさん作って人助けしました。極楽行きでしょう」
「お前は鉄にまぜものをして、なまくら道具を売ったな! ほら、ちゃんとえんま帳(えんまちょう→生前の罪を書きとめるとされる帳面)に書いてあるわい」
「まぜものをしないと、安くはなりません。安くねえと、貧乏人には買えません」
「口答えするでない。地獄へ行け!」
かじ屋もポイッと放り投げられ、地獄への道までふっとんでくると医者と山ぶしが、ニコニコ顔でむかえました。
「これで三人」
「では、ぼちぼちまいりましょうか」
そんなわけで、三人は連れだって地獄の入り口、地獄門につきました。
門番の鬼が、おそろしい顔で言いました。
「ほれ! さっさと入らんか。そして、あの山を登って行くんだ」
三人が見ると、なんとそれは鋭い刃物がズラリと並んだ、つるぎの山でした。
「あんな山を登ったら、足がさけちまうよ」
「ど、どうしよう」
医者と山ぶしがおろおろしていると、かじ屋がニッコリ。
「ここは、おいらにまかしとけ」
なにをするのかと思えば、取り出したヤットコ(→大きなペンチの様な道具)でポキポキとつるぎをへし折り、火をおこして、トンカン、トンカンと、それをうちなおしました。
「そら出来た。鉄のわらじだ。これをはいて歩けば大丈夫」
三人は鉄のわらじをはいて、つるぎの山へ登っていきました。
するとポッキン、ポッキン、つるぎはおもしろいように折れてしまいます。
「うひゃー、こりゃあすごい! 後ろから来る者のために、道をつくっておこう」
ポッキン、ポッキン、
ポキポキ、ポッキン。
「それそれ、どんどん、折れ折れ」
たまげたのは、鬼たちです。
「なんだ、あいつら!」
「た、たいへんだ! 大王さまに知らせねば」
それを聞いたえんま大王は、怒ったのなんの。
「つるぎの山に道を作っただと? ばっかも~ん! だまって見とるやつがあるか! さっさとひっとらえて、カマへ放り込め。カマゆでじゃ~!」
たちまち三人はつかまって、大きなカマの中に放り込まれました。
鬼たちは、下からドンドンと火をたきます。
「あちっちっち、こりゃいかん!」
「もう、だめじゃ!」
すると今度は、山ぶしが、
「ここは、わたしにまかせなされ。自慢の法力(ほうりき)を見せてくれる」
と、呪文(じゅもん)をとなえました。
「ぬるま湯になれ、ぬるま湯になれ。ナムウンケイアラビソワカ、か~っ!」
すると不思議な事に、お湯はちょうどいい湯かげんになりました。
「おぬしの術は、たいしたもんじゃ」
「こんな立派な山ぶしどんを地獄に送るなんて、えんまも目がないのう」
「それにしても、いい湯じゃ」
「お~い、そこのオニたち。手ぬぐいを貸してくれんか。体を洗いたいんじゃ」
三人はすっかりいい気分で、うかれて歌まで歌い出すしまつ。
さて、怒りくるったえんま大王は。
「うぬぬぬ、あやつら、地獄をバカにしおって! ゆるせん! ゆるせん! わしがじきじきに、せいばいしてくれるわ!」
えんま大王は大きな手で三人をひとつかみにすると、ポイッと口の中へ放り込んでしまいました。
ヒューーーッ、ストーン!
三人は、えんま大王の腹の中に落ちていきました。
「うむ、さすがはえんま大王の腹の中、なかなか広いわい」
でも、おもしろがっている場合ではありません。
「あっ、なんだか体がムズムズしてきた」
「大変じゃ、体かとけてきた!」
「今度こそ、もうだめじゃ!」
山ぶしとかじ屋は泣き出しましたが、医者は落ち着いたもので、
「心配するな。いま、体のとけぬ薬を作ったで、飲んでみなされ」
その薬を飲むと、たちまち体はシャンとなりました。
三人は大喜びで、えんま大王の腹の中を探検(たんけん)です。
「医者どん、これは何だ?」
「そりゃ、笑いのひもじゃよ」
医者がその笑いのひもを引っ張ると、えんま大王は急に笑い出しました。
「ウヒ、ウヒ、ウヒャハハハハハー」
今度は、泣きのひもを引っ張ると、
「うぇーん、うぇーん。悲しいよう」
と、涙がポロポロ。
わけもなく笑ったり泣いたりするえんま大王に、鬼たちは気味悪そうに顔を見合わせました。
「こりゃあ、おもしろい」
腹の中の三人は、笑いのひもに、泣きのひも、それから怒りのひもに、くしゃみのひもと、あちらこちらのひもをメチャクチャに引っ張りました。
「ギャハハハハハッ、はひ? ガオーッ、ガオーッ、うぇ~ん、へっくしょーん!」
いやはや、もう大変なさわぎです。
山ぶしとかじ屋が大笑いしていると、医者が腹の中に何か薬を塗りながら言いました。
「さて、そろそろ下し薬を塗って、外へ出よう。・・・うっひひひ。これはきくぞ」
泣いたり笑ったりしていたえんま大王は、急に腹をかかえて便所にかけこみました。
ピー、ゴロゴロ。
えんま大王のお尻から、医者、山ぶし、かじ屋が、次々と飛び出してきました。
ニコニコ顔の三人を見た大王は、
「よくも、わしに恥をかかせたな。お前たちは、地獄におるしかくもないわい! とっととしゃばへもどれっ!」
と、三人を地上へ吹き飛ばしてしまいました。
こうしてこの世にまいもどった三人は、顔を見合わせて大笑い。
それから三人は、いつまでも仲良く暮らしたという事です。
おしまい
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