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福娘童話集 > きょうの百物語 > その他の百物語 >かかしを倒した太郎坊
第 10話
かかしを倒した太郎坊
むかしむかし、ある山寺に、太郎坊(たろうぼう)と次郎坊(じろうぼう)という小坊主がいました。
次郎坊はまじめに修行をしていましたが、太郎坊はすぐに弓矢を持って山へ遊びに行くのです。
山寺の和尚さんも太郎坊には困り果てて、ある日、太郎坊に言いました。
「今までがまんをしてきたが、これ以上、お前の様な荒くれ者を寺に置いておくわけにはいかん! これより先は好きな弓矢で、化け物でも退治していろ!」
「えっ? いいの?」
太郎坊は反省するどころか、大喜びで旅に出かけました。
旅に出てから三日目、太郎坊は不思議な村に着きました。
その村はとても大きくて立派ですが、人の気配が全くありません。
「どうしたんだ? みんながみんな、隠れん坊でもしているのか?」
不思議に思いながら歩いていると、酒屋の中から女の人の泣き声が聞こえてきました。
「おお、人がいたのか」
太郎坊が酒屋に入ると、可愛らしい娘がしくしくと泣いていたのです。
「どうした? なぜ泣いている? それに、他の者はどうした?」
太郎坊がわけを尋ねると、娘は涙をふきながら言いました。
「実は、この村に化け物がやって来て、次々と村人をさらっていくのです。残っているのはわたしだけですが、わたしも今夜、化け物にさらわれます」
「そうか。なら、おれが何とかしてやろう。任せておけ」
太郎坊は娘が作ってくれたにぎり飯をたらふく食べると、弓の練習をはじめました。
その夜、太郎坊が弓を持って化け物を待ち構えていると、どこからか生臭い風が吹いてきて、天井裏から臼(うす)の様に太い一本足が飛び出してきました。
「出たな!」
太郎坊のすぐに弓矢を放ち、一本足に命中させました。
「くらえ!」
太郎坊は続いて二の矢、三の矢を放ちましたが、天井裏の化け物は平気な様子です。
「矢はきかんか。化け物、お前は誰だ! 顔を見せろ!」
太郎坊が怒鳴ると、天井裏から化け物が答えました。
「おらは、田んぼを守るかかしさまだ!」
そして天井裏から、のっぺら坊にすみで《へ・の・へ・の・も・へ・じ》と書かれた顔が現れました。
それは確かに、田んぼによく立っているかかしです。
恐ろしい化け物を想像していた太郎坊は、いささか拍子抜けしながらも、かかしの化け物に尋ねました。
「おい、かかし。田んぼを守るかかしが、なぜ人さらいをするのだ?」
するとかかしの化け物が、怒りで声を震わせながら言いました。
「わしらかかしが、風の吹く日も雨の降る日も心を込めて田を守っているのに、この村の人間どもは感謝のひとかけらも持っておらん。それでわしは村の人間どもをこらしめる為に、村の者をさらったんだ」
「そうか。それなら、これからはかかしを大事にあつかうと約束をしよう。それでいいか?」
「・・・よし、約束は守れよ」
かかしの化け物はそう言うと、どこからか家ごとすっぽり入りそうな大きな袋を引きずってきて、その中に入っていた村人たちを袋から引っぱり出しました。
こうして自由の身になった村人たちは、助けてくれた太郎坊にお礼を言って自分の家へと帰って行きました。
「うーん、大した事はしておらんが、とりあえず良かった、良かった」
化け物退治をした太郎坊が再び旅に出かけようとすると、酒屋の娘が太郎坊に言いました。
「どうかわたしを、あなたさまの嫁にして下さい」
「うん? ああ、いいよ」
その後、太郎坊は酒屋の娘と結婚して、この村で幸せに暮らしたという事です。
おしまい
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