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福娘童話集 > きょうの百物語 > その他の百物語 >山の魔物の仕返し 
      第 11話 
         
          
         
山の魔物の仕返し 
       むかしむかし、ある山のふもとのお寺に、怖い物知らずのお坊さんがいました。 
         
 ある晩の事、山に魔物がいるとの噂を聞いたお坊さんは、刀となぎなたを持って山に向かいました。 
「どのような魔物か、この目で見てやろう」 
 
 お坊さんは月明かりをたよりに山を登っていきましたが、何も起こらないまま山の頂(いただき)に着きました。 
 お坊さんは岩に腰をおろすと腹ごしらえの握り飯を食べ、たばこを吸いながら魔物が現れるのを待ち続けました。 
「もうそろそろ、現れてもよさそうなものだが」 
 けれどいくら待っても、魔物は現れません。 
「さては、わしに恐れをなしたな。魔物とは名ばかりの、意気地なしか」 
 お坊さんは腰の刀を抜くと、近くの木に名前を刻みました。 
「せめて、ここに登った印を残してやろう」 
 そして山を降り始めた、その時です。 
 ゴォーッ! 
と、ものすごい風が吹いてきて、雲の上から怒鳴る様な老人の声が響いてきました。 
「ぐわはははは。 
 意気地なしとは、馬鹿にしてくれたな。 
 一人でやって来た度胸に、今夜のところは大目に見てやろう。 
 だが、このままで終わるとは思うなよ」 
 さすがのお坊さんも腰を抜かすほどびっくりしましたが、魔物はそれだけ言うとどこかへ行った様子です。 
 震えながらお寺へ戻ったお坊さんは、それから山へ行こうとはしませんでした。 
 
 さて、あれからしばらくは何事もなく、お坊さんも山の魔物の事を忘れかけたある晩。 
 お坊さんは、不思議な夢を見ました。 
 仙人の様な身なりの小人の老人が二人の家来と一緒に雲に乗って、寝ているお坊さんの枕元にやって来たのです。 
「われは、山の魔物なり。いつか、お前に馬鹿にされた仕返しに来た。覚悟いたせ」 
 小人の老人が言うと、くわを手にした家来の一人がお坊さんの右の耳の穴へ、もう一人が左の耳の穴へ入って行きました。 
 そして二人の家来は、お坊さんの耳の奥から白いあぶらの固まりの様な物を掘り出してきたのです。 
「う、うーん・・・」 
 お坊さんはその間、金縛りにあって動く事が出来ませんでした。 
 翌朝、目を覚ましたお坊さんは無事でしたが、何だかひどく疲れていました。 
「悪い夢を見たせいか、体がだるい」  
 
 そして同じ夢が、次の日も、次の日も、毎晩繰り返されたのです。 
 小人たちがお坊さんの耳の穴から取り出した物は、お坊さんの魂だったのでしょうか。 
 お坊さんは日ごとにやつれていき、やがて死んでしまったそうです。 
      おしまい 
           
             
         
          
          
       
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