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第 18話

お菊の水

お菊の水

 むかしむかし、十兵衛(じゅうべえ)という腕のいい狩人(かりゅうど)が、頭に十六本の角を持つ五郎沼(ごろうぬま)の大蛇を退治して有名になりました。
 それに得意になった十兵衛は、ある日、涙を流しながら手を合わせて命乞いをする身ごもった母猿を射ち殺してしまい、そのたたりから十兵衛の女房は熊の手足と猿の顔を持つ赤ん坊を生み落としたのでした。
「人も猿も、命は同じく尊いもの。それを遊びで奪ってしまうとは」
 改心した十兵衛は猟師をやめると、毎日毎日、神仏に許しをこい続けたのですが、それから三度も化け物の様な赤ん坊が生まれたのでした。
 でもようやく四度目にして、やっと人間の姿をした可愛い女の子が生まれたのです。
「おおっ! ようやく我が罪が許されたぞ!」
 十兵衛夫婦は涙を流して喜ぶと、その女の子をとても可愛がって育てました。
 お菊と名づけられた女の子は、その美しさから年頃になると大勢の若者から縁談を申し込まれました。
 でもどうした事か、お菊はしだいにふさぎ込み、家に閉じこもる様になってしまいました。

 ある秋の日暮れ、仕事から帰った十兵衛は、悲しく歌うお菊の言葉を耳にしました。

♪雨を降らせて行くべきか
♪風を吹かせて行くべきか

 それを聞いた十兵衛は、お菊に尋ねました。
「お菊よ、『雨を降らせて行くべきか、風を吹かせて行くべきか』とは、どういう意味だ?」
 すると、お菊は逃げる様に部屋の中へ駆け込み、泣きながら決して中をのぞかない様にと頼みました。
「わかった。どんな事情かは知らぬが、部屋をのぞかぬと約束しよう」
 そう言った十兵衛ですが、その夜、こっそり部屋をのぞいてびっくりです。
 なんと中にいたのはお菊ではなく、十六本の角を持つ大蛇だったのです。
 それはむかし十兵衛が殺した、五郎沼の大蛇でした。
 大蛇は十兵衛の子どもに生まれ変わって前世に殺されたうらみをはらそうとしたのですが、父母の愛を一身に受けて育つうちに前世のうらみが消えていたのです。
 大蛇になったお菊は、部屋から出てくると十兵衛夫婦に言いました。
「もう、前世のうらみはありませんが、この姿を見られたからには一緒に暮らす事が出来ません」
 そしてお菊は自分の右目を取り出すと、十兵衛夫婦に渡しました。
「これは、なめると飢えをしのげる珠です。お父さん、お母さん、どうかいつまでもお元気で」
 お菊はそう言って十兵衛夫婦の元を去りましたが、去ったお菊はその後、人間に姿を見られた罰として北上川(きたかみがわ)で雷神(らいじん)に八つ裂きにされてしまいました。
 そしてその時に起こった大洪水で多くの人が死にましたが、十兵衛夫婦はお菊が残してくれた飢えをしのぐ不思議な珠をなめて何とか生きながらえたそうです。

おしまい

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