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福娘童話集 > きょうの百物語 > その他の百物語 >化け物虫と白い馬
第 23話
化け物虫と白い馬
むかしむかし、あるところに、とても腕のよい狩人(かりゅうど)がいました。
ある日の事、狩人が獲物を追って山奥に入っていくと、いつの間にか日がくれてしまいました。
「仕方ない。今夜は山にとまるか」
狩人はたき火をすると、鉄砲をそばにおいてゴロンと横になりました。
真夜中、胸騒ぎを感じた狩人が、ふと目を覚ましました。
(この異様な気配は?!)
狩人が用心深く辺りを見回すと、たき火の向こうから一匹の小さな虫がちょこちょこと近寄ってきます。
「なんだ、虫か。それにしても気持ちの悪い虫だな」
狩人は近寄ってきた小さな虫を、指先でピーンと、はじきとばしました。
「やれやれ。もうひと眠りするか」
ところがしばらくして、また狩人は異様な胸騒ぎを感じました。
起き上がるとたき火の向こうから、さっきの虫がまたやってきたのです。
それもさっきより、体がひとまわり大きくなっています。
「まったく、気持ちの悪い虫だ」
狩人はその虫をつまんで放り投げましたが、しばらくすると虫はまた戻ってきました。
虫は何度投げても戻って来て、その度に体が大きくなっていきます。
「この虫は、化け物だ。おれの命をとろうとしているに違いない」
狩人は立ち上がると虫を踏みつぶして、虫が死んだことを確認してから放り投げました。
しかし虫はすぐに生き返ると、またこちらへとやって来ます。
「この化け物虫め! この! この! この!」
狩人は虫を何度も踏み殺しましたが、虫はすぐに生き返ると、さらに大きな体になってやって来ます。
そのうちに虫は、狩人よりも大きな姿になりました。
「ええい、こうしてくれる!」
狩人は鉄砲を構えると、虫に撃ちました。
ズドーン!
しかし虫は、鉄砲の玉が当たっても平気で近づいてきます。
「たっ、助けてくれー!」
さすがの狩人も顔色を変えて逃げ出しましたが、虫は後から追いかけてきます。
「助けてくれー!」
狩人は無我夢中で走るうちに何とか虫から逃げる事はできましたが、山奥に迷い込んでしまって帰り道がわかりません。
「ここは、どこだろう?」
困っていると、近くで馬の鳴き声がしました。
見ると真っ白い馬が現れて、狩人にこう言うのです。
『あの虫がすぐそこまで近づいています。さあ、早くお乗りなさい』
狩人は馬がしゃべった事に驚きましたが、すぐに馬へまたがりました。
「すまない、おれを村まで連れて行ってくれ!」
馬はうなづくと、まるで風の様な早さで山の中を駆け出しました。
そして狩人を村まで送ると、馬はまた山へと駆け戻っていきました。
その後、狩人は、
「今後こそ、あの虫を退治してやる!」
と、強力な鉄砲を持って何度も山へ行きましたが、あの虫にも白い馬にも会う事はありませんでした。
おしまい
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