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福娘童話集 > きょうの百物語 > その他の百物語 >クモになったお姫さま
第 26話
クモになったお姫さま
むかしむかし、戦争で負けた殿さまのお城が、敵軍に攻め込まれました。
お城から少し離れたさびしい山の一軒家で、一人の娘が夜なべ仕事にワタをつむいでいます。
その娘の家の戸を、誰かが叩きました。
トントン
トントン
(いまごろ、誰かしら?)
娘が戸を開けると、そこには天女の様に美しい女の人が立っていました。
(このお方は、たしか、お城のお姫さま?)
娘がすぐにお姫さまを部屋に入れると、そのあとから二人の家来がやってきました。
「姫さま。追っ手がせまっております」
「なにとぞ、お覚悟のほどを」
いい終わらないうちに、すぐ近くのやぶで人の気配がしました。
(追っ手だわ)
娘は大急ぎで、お姫さまと二人の家来を奥のワタ小屋の中に隠しました。
そしてまた部屋に戻って、ワタをつむぎはじめます。
「おい、ここに家があるぞ!」
やってきた追っ手たちは乱暴に戸をけり破ると、土足のまま家に入り込んで言いました。
「ここに、城の姫がまいったであろう!」
娘は落ち着いて、追っ手たちに答えました。
「いいえ。そのようなお方は、まいりませぬ」
「嘘を言うな! この家しか、逃げ込む場所などないのだ!」
追っ手たちは勝手に押し入れを開けたり、天井や床下を探し回りました。
「うーん、この家にはいないぞ!」
「よし。家の外を探せ!」
追っ手たちが出て行くと、娘はワタ小屋へ行って隠れている三人に言いました。
「追っ手は出て行きましたが、まだあぶのうございます」
「うむ。また、戻ってくるかもしれんな」
「それでは、あの方法を試しましょう」
家来たちはワタ小屋の土間に穴を掘って、その中にお姫さまを隠しました。
そして自分たちはお姫さまを守るように体をふせて、その上から娘にワタをたくさんかぶせてもらいました。
しばらくすると別の追っ手たちが、手に手にたいまつを持ってワタ小屋の中に入ってきました。
「この小屋があやしいぞ」
「それっ。くまなく探せ!」
追っ手の一人が刀を抜いて、そばに立っている娘をにらみつけました。
「やい。お前が隠したな!」
刀にびっくりした娘は、つい、ワタ小屋の方を見てしまいました。
「なるほど、あの小屋に隠しているのだな」
やがて追っ手たちは、ワタ小屋を調べはじめました。
「おい、ここに穴を掘った跡があるぞ」
「うむ。そこに違いない」
追っ手たちは、姫たちが隠れているワタの山を取りのけました。
それを見た娘は、思わず目をつぶりました。
(もう駄目だわ。お姫さま、ごめんなさい)
しかし追っ手たちは、そのままワタ小屋を出て行きました。
「穴には誰もいないぞ! 外を探そう」
(え?)
追っ手たちが出て行って一人残された娘は、お姫さまが隠れているはずの土間の穴をのぞいてみました。
すると確かに、穴に隠れていたはずのお姫さまと二人の家来の姿はありません。
(どこへ行ったのかしら?)
その時、穴の中から大きな女グモと小さな二匹の男グモが出てきました。
(こんなクモ、見たのは初めて)
娘が三匹のクモを見ていると、三匹のクモは次々と娘に小さく頭を下げて、そのままどこかへ行ってしまいました。
おしまい
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