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第 35話
横向き地蔵(よこむきじぞう)
長崎県の民話 → 長崎県情報
むかしむかし、町でひと仕事を終えた泥棒が、盗んだ品物を入れた大きな包みを背中に背負って歩いていました。
「ふー、重い重い。今日はよく働いたな。どれ、この辺でひと休みをして荷物を整理するか」
泥棒は森の木かげで包みを開くと、盗んだ品物を調べ始めました。
「・・・こいつは高く売れそうだ。・・・これはダメだ」
泥棒は価値のある物は再び包みの中に入れて、価値のない物はその場に捨てて帰るつもりです。
「よし、これで軽くなった」
泥棒は整理を終えて軽くなった包みを背負って出発しようと思いましたが、ふと横を見ると小さな祠(ほこら)があって中のお地蔵さまがこっちを向いて立っていました。
「地蔵さまに見られていたか・・・」
気まずくなった泥棒は、捨てようと思っていた品物をお地蔵さまに差し出して言いました。
「地蔵さま。これを差し上げますから、今見た事は内緒にお願いします」
すると不思議な事に、お地蔵さまが口を開いたです。
「よし分かった。今回だけは、見逃してやろう。だが、お前も人にしゃべるなよ」
言い終わるとお地蔵さまは、顔をクルリと横に向けました。
「ひぇー! 地蔵さまがしゃべった!」
びっくりした泥棒は、あわてて逃げていきました。
それから三年後。
あの泥棒が、再びお地蔵さまの前にやって来ました。
お地蔵さまがしゃべって横を向いたのは何かの勘違いだったと思い、確かめに来たのです。
するとやはり、お地蔵さまは顔を横に向けたままの姿で立っていました。
「あれは、勘違いではなかったか」
泥棒がびっくりしていると、ちょうどお地蔵さまにお参りに来た人が尋ねました。
「どうかしましたか? 何やら驚いている様子ですが」
「ああ、何とも不思議な話なのだが・・・」
泥棒はそう言って、お参りに来た男に三年前の出来事を話して聞かせたのです。
するとそれを聞いた男の目付きが変わり、泥棒にこう言いました。
「実は三年前、わたしの家へ泥棒が入ったのです。
そして盗まれた品物の一部が、この地蔵さまの前に置かれていたので、それから毎日ここへお参りをして盗んだ泥棒が来るのを待っていたのです。・・・泥棒は、お前だったのか!」
男は泥棒を捕まえると、奉行所(ぶぎょうしょ)へと突き出しました。
それからこのお地蔵さまは『横向き地蔵』と呼ばれ、土地の人々から大切にされたそうです。
おしまい
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