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福娘童話集 > きょうの百物語 > その他の百物語 >お化けむじな 
      第 38話 
         
          
         
お化けむじな 
       むかしむかし、ある村はずれに、小さな森がありました。 
 そこには恐ろしいお化けがいて、やってくる人間を食べるというので、だれも近よる者はありませんでした。 
 それどころか夜になると、早々と家の戸を閉めて、子どもたちを外に出さないようにしていたのです。 
 さて、この村に弥助(やすけ)という、ひどく気の弱い男がいて、病気のお母さんと二人でくらしていました。 
 ある晩の事、村の若者が集まっているところへ、弥助がやってきました。 
 すると誰かが、弥助をからかって言いました。 
「おい、弥助、森のお化け退治に行かないか? もしうまくお化けを退治してくれたら、五両(→約三十五万円)の金をやってもいいぞ」 
 すると弥助は向き直って、 
「なに、五両だって?」 
「そうだ。ここにいる五人で、一両ずつ出そう」 
「ほんとに、ほんとに五両、くれるのか?」 
「ああ、やるとも」 
「ほんとだな」 
「ほんとだ」 
 弥助は悩みました。 
 人食いのお化けを退治するなんて、とんでもない事ですが、 
(でも、もし五両あったら、病気のおっかさんを医者に見せられるかもしれない) 
と、思い、みんなに言ったのです。 
「よし、おら、お化け退治にいく。だから、まちがいなく五両をくれるという、証文を書いてくれ」 
「ああ、いいだろう」 
 どうせ、腰を抜かして逃げ帰ってくるにちがいないと思った若者たちは、 
《お化けを退治したら、必ず弥助に五両の金を払います》 
と、紙に書いてわたしました。 
「よし、必ず金をもらうからな」 
 証文をふところに入れた弥助は、家に戻るとオノを持ち出して、森へ出かけました。 
 暗い森の中は、しーんとしていて、物音ひとつ聞こえません。 
 弥助は怖いのをがまんして、森の中にある一番高い松の木に登りました。 
 それから腰のオノを抜いて、しっかりと握りしめました。 
「さあ、出るなら早く出ろ!」 
 ですが、お化けはいっこうに出て来ません。 
 さて、どのくらいたったでしょう。 
 弥助がふと下を見ると、月あかりの中に、十歳ぐらいの男の子が立っています。 
 その男の子が、弥助に声をかけました。 
「なあ、あんちゃん、弥助さんという人かい?」 
「ああ、おら、弥助だ」 
「そんなら、早く家に帰ってよ。おっかさんが死にそうだって。おら、近所の人にたのまれてきたんだ」 
「なに、おっかさんが!」 
 弥助はあわてて木からおりようとして、ふと足を止めました。 
 さっき出かけるとき、お母さんはよくねむっていたし、弥助が木に登っているなんて、だれも知っているはずはありません。 
 それに、こんな時間に子どもが来るのも変です。 
「さてはお化けのやつ、おらを下におろして、食おうというんだな。その手にはのらねえぞ」 
 弥助がいつまでもおりてこないので、男の子はあきらめてもどっていきました。 
 しばらくすると、今度はちょうちんをつけた葬式の列がやってきて、弥助のいる松の木の下に棺おけをおろしました。 
「何だ?! まさか、おっかさんが入っているんじゃないだろうな」 
 どきどきしながら見ていると、葬式の人たちが棺おけに火をつけたのです。 
「こんなところで、棺おけに火をつけるのは変だ。それに、こんな夜中に葬式をするはずがない」 
 弥助がじっと見ていると、棺おけを運んできた人たちがお経を唱え始めました。 
「なんまいだ、なんまいだ・・・」 
 するとその時、 
 パーン! 
と、いう音とともに、火をつけた棺おけが破裂して、中から白いものが飛び出しました。 
 それと同時に、棺おけを運んできた人たちの姿が消えました。 
 白いものは、まるで煙のように、ふわりふわりと松の木を登ってきます。 
 弥助は思わず、オノをかまえました。 
 すると白いものの中から、青白い手がにゅうっとのびてきて、弥助の足をつかんだのです。 
「こら弥助! お前はおらが死んだというのに、どうして戻ってこない!」 
 それはまぎれもない、お母さんの声です。 
 しかし弥助がその手を見ると、なんとけものの様に毛むくじゃらです。 
「だまされないぞ! おっかさんは、そんな手じゃない!」 
 そう言いながら、弥助がオノをふりまわすと、その手がスパッと切れました。 
「ぎゃあー!」 
 ものすごい悲鳴とともに、白いものが、どさりと下へ落ちました。 
「やっ、やっつけたのか?」 
 下に落ちた白いものは、ピクリとも動きませんが、それでも弥助は、こわくて下へおりられません。 
 弥助が木の上でふるえていると、やがて夜が明けてきて、むこうから若者たちがやってくるのが見えました。 
「弥助のやつ、大丈夫かな?」 
「なに、今頃は目を回して倒れているか、お化けに食われて死んでるかのどっちかだよ」 
「ひどい話しだな。五両やるなんて、うそまでついてよ」 
「仕方ないさ。まさか、本当に行くなんて思わなかったもんな」 
 若者たちが話しながら松の木の下まで来てみると、なんと三十貫(さんじゅっかん→約100s)もある大むじなが、手首を切られて死んでいるではありませんか。 
「おい、まさか、これを弥助が」 
「そうだとしたら弥助のやつ、どこへ行ったんだ?」 
 その声を聞いて、 
「おーい、おれはここにいるぞ!」 
と、松の木から弥助がおりてきました。 
 弥助は、大きなむじなが死んでいるのを見て、 
「夕べのお化けは、こいつだな」 
と、ほっと一息つきました。 
 そして、若者たちの方に向き直ると、 
「さあ、おらは、お化け退治したから、約束の五両をもらうぞ」 
と、胸を張って言いました。 
 若者たちは、お互いの顔を見ました。 
 今さら、あれはうそだとは言えませんし、五両なんて金もありません。 
 そこでみんなは、弥助の前に両手をついてあやまりました。 
「弥助、かんべんしてくれ。お前は気が弱いどころか、村一番の豪傑じゃ」 
「そうじゃ、弥助は村一番、いいや、この国一番じゃ。だから、五両のことは・・・」 
 でも弥助は、いくらほめられても承知しません。 
「いいや、約束は約束じゃ。絶対に五両をもらうぞ!」 
 するとそこへ、庄屋さんが朝の散歩で通りかかりました。 
 わけを聞いた庄屋さんは、弥助に言いました。 
「よし、その金はわしが出してやろう。なんといっても弥助のおかげで、無事にお化けをやっつけることができたんだからな」 
 こうして弥助は、庄屋さんにもらったお金でさっそくお母さんを医者に見せました。 
 おかげでお母さんの病気はぐんぐんとよくなり、二人はいつまでも幸せにくらしたという事です。 
      おしまい 
           
             
         
          
          
       
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