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福娘童話集 > きょうの百物語 > その他の百物語 >化け物屋敷をもらった侍
第 47話
化け物屋敷をもらった侍
むかしむかし、武芸にも学問にもすぐれた浪人が、殿さまに召し抱えられて屋敷をもらいうけました。
でもそれがひどいオンボロ屋敷で、しかも化け物が出るというのです。
それを聞いた仲間の侍が気の毒がって、
「まったく、とんでもない物をもらったな。どんな奴でも一晩で逃げ出すか、化け物に食い殺されていまうというぞ。なあ、殿さまに屋敷を変えてもらったらどうだ?」
と、すすめました。
けれど、侍は、
「いやいや、化け物を恐れて屋敷替えを願い出るなんて、武士の恥だ。それよりも、むしろ自分から進んでこういう屋敷に住んでこそ、武士の株があがるというものだ」
と、言って、さっさと屋敷へ出かけていって、荒れ果てた屋敷の修理を始めました。
そして、
「まずは一晩泊まり、化け物の正体を見届けた上で、引っ越しをしよう」
と、座敷で一人静かに、本を読み始めました。
するとその夜、
ズシーン! ズシーン!
と、大きな足音をとどろかせて、身の丈が二丈(にじょう→約六メートル)もある大入道がやってくると、
ドン! ドン! ドン!
と、乱暴に門を叩いて言いました。
「開けろ! 開けねば、門をぶちこわすぞ!」
しかし侍は、慌てずに言いました。
「夜中に無礼な! どこのだれか、名を名乗れ!」
「わしがだれか、そんな事は関係ない。開けろといったら開けるのだ。開けないと、ここを蹴破るぞ! お前は刀を持っているようだが、わしの体は刀では切れぬぞ!」
それを聞いた侍は、
(ふん! 化け物なら門を開けなくとも、自分から入って来ればいいだろうに)
と、思いながらも、これから住む屋敷の門を壊されてはかなわないと、仕方なく門を開けてやりました。
すると入ってきたのは大入道ではなく、薄汚い身なりをした小さなおじいさんだったのです。
おじいさんは座敷にあがってあぐらをかくと、身の上話しを始めました。
「やあ、さっきはおどろかしてすまんかったな。わしはこの屋敷の土地神じゃが、粗末にされ続けて、今ではごらんのありさまだ。そこで腹いせに、住む者をおどかしてきたのだが、しかしお前は、心正しく見所がある」
ほめられた侍は、少し照れながら言いました。
「いや、それほどではありません。武士として、当然の事です」
「そういうところが、立派なのじゃ。ところで、折り入って頼みがある。実はな、庭のすみにわしのほこらがあるのだが、もうボロボロでな。すまんが大工に頼んで、ちゃんとした物に直してもらいたい」
「ほこらをですか?」
「そうだ。・・・ああ、そうそう、大工に頼む金なら、松の木の根元にうずめてあるぞ。では頼んだぞ」
土地神のおじいさんはそういうと、すーっと、煙のように消えてしまいました。
翌朝、侍が松の木の根元を掘ってみると、大判小判がたくさん詰まった箱が出てきました。
そこで侍は大工をよんで、ほこらを立派に立て直すと、それから化け物は出てきませんでした。
そしてこの話をきいた殿さまは、
「あっぱれじゃ。お主こそ、武士のほまれである」
と、侍をほめて、たくさんのほうびを与えたということです。
おしまい
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