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福娘童話集 > きょうの百物語 > その他の百物語 >親父様に化けたタヌキ
第 52話
親父様に化けたタヌキ
むかしむかし、ある村に定七(さだしち)という若者が年老いた父親と暮していました。
年で体が弱くなった父親は、冬の間はいつもいろりの火でお腹を温めています。
そこで親孝行な定七は人から借金をしても、いろりのたきぎをたやすことはありませんでした。
「親父様、いつまでも長生きしてくれよ」
しかし定七の願いは通じず、父親は死んでしまいました。
父親の葬式をすませた定七は、たきぎの借金を返す為によその村へ出かせぎに行くことにしました。
その時、定七は村の若者たちに言い残しました。
「おれの家は空き家も同じだから、おらが帰ってくるまで寄り合いの場所に使ってくれ」
そこで村の若者たちは、夜になると定七の家に集まって酒を飲んだり話したりしました。
ある晩の事、定七の家で酔っぱらって寝ていた若者の一人が便所に起きると、なんと定七の父親がいろりの火でお腹を温めていたのです。
(そっ、そんなばかな! 定七の親父さんは死んだはず!)
若者が立ちすくんでいると、父親が言いました。
「おい、定七。お前もここへ来て腹を温めろ」
びっくりした若者は、
「うひゃーー!」
と、叫びながら定七の家を飛び出し、そのまま自分の家へ逃げ帰りました。
「定七の家には、親父さんの幽霊が出るそうな」
うわさはたちまち村中に広まり、やがてよその村で働いていた定七の耳にも入ったのです。
びっくりした定七は、すぐに自分の村へ戻りました。
(親父様は、化けて出て人をおどかすような事はしない。もしうわさが本当なら、何者かが親父様に化けているに違いない)
定七は仲間が止めるのも聞かず、包丁をふところに隠し入れて我が家へと戻りました。
そしていろりに火をおこして、父親の幽霊が出てくるのを待ちました。
しかし夜になっても父親は現れず、定七はいろりのそばで眠り込んでしまいました。
真夜中になると、どこからか定七を呼ぶ声がしました。
「・・・定七、・・・定七」
目を覚ました定七がふと見てみると、なんとに父親がいろりの火でお腹を温めていたのです。
父親は定七に言います。
「定七。お前もここへ来て腹を温めろ」
その声や姿は、間違いなく定七の父親です。
「おっ、親父様・・」
定七は目に涙を浮かべながら、父親の隣りに座ろうとしました。
その時、
「!!!」
父親から嫌な気配を感じた定七は、思わず隠し持った包丁を父親の腹に突き刺しました。
そのとたん、父親の姿がふっと消えました。
(やっ、やっちまった・・・。たとえ幽霊であっても、自分の所へ戻ってきてくれた親父様を刺すなんて、おれはとんでもない親不孝者だ)
定七は震える手で包丁をにぎりしめたまま、夜が明けるのを待ちました。
夜が明けてから改めて家の中を見ると、いろりのへりから窓のところまで血の跡が点々とついています。
「血!? もし幽霊なら、血の跡がつくはずがない。幽霊じゃないとすると。・・・もしかしておれは、誰か人を刺したのでは!」
顔を真っ青にした定七は外に飛び出すと、血の跡を追いました。
血の跡は近くの森に続き、森の中のほら穴に入っていきます。
定七がほら穴に入ってみると、なんと一匹の大ダヌキが腹を刺されて死んでいるではありませんか。
その大ダヌキのまわりには動物の骨がたくさんあり、その中に人の骨もまざっています。
この大ダヌキは定七の父親に化けて、定七が油断したところを襲うつもりだったのです。
「タヌキだったとはいえ、親父様の姿をしていたものをこのままにはしておけない」
定七は大ダヌキの墓を作ってやり、墓に手を合わせると村に帰っていきました。
おしまい
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