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      第 55話 
         
          
         
テッジとの約束  
東京都の民話 → 東京都情報 
       むかしむかし、八丈島のある村に新八(しんぱち)という農民がいました。 
         
 ある日の事、新八が家を出たまま行方知れずになり、翌日になっても帰ってこないので村人たちが手分けをして探しました。 
 でも新八は、どうしても見つかりません。 
「これだけ探しても見つからないとは。新八の奴、テッジにさらわれたのではないか?」 
 テッジというのは八丈島の山に住んでいると言われる妖怪で、時々人里へおりてきては子どもをだまして山へ連れ込んだり、夜になると松明をかかげながら山の中を走りまわったりの悪さをします。 
 これまでにも子どもがさらわれて、一人ではとても行く事の出来ない遠くの山奥で見つかった事がありましたが、大の男がテッジにさらわれたという話はありませんでした。 
「新八、無事だといいが」 
 
 そんな三日目の朝、みんなの心配をよそに新八は家に帰ってきたのです。 
「新八、どこへ行っていた?」 
「・・・」 
「テッジにさらわれたのかと心配したぞ」 
「・・・」 
 家の者や村人たちがどこに行っていたのかを尋ねますが、新八は固く口を閉じて何も言いません。 
 そして何日かすると新八はまたいなくなり、今度は五日目に帰ってきました。 
「新八、何があったのだ?」 
「・・・」 
 みんなが尋ねますが、やはり新八は何を聞いても口を開きません。 
「・・・まあいい、何か事情があるのだろう」 
 みんなはそういって新八が自分から口を開くのを待ちましたが、何日かするとまた姿を消して何日も帰ってきませんでした。 
「これ以上、村人たちに心配はかけられない」 
 家の者や親戚達は相談をして奥座敷の中に囲いを作ると、そこへ新八を閉じ込めて見張りの番人までつけることにしました。 
 
 新八が囲いの中に閉じ込められてから三年三ヶ月後、今まで口を開かなかった新八が突然話し出したのです。 
「みんな、今まで心配をかけたな。 
 実はテッジから、少なくとも三年間は口を開くなと言われたんだ。 
 もし約束を破ると、股裂きにすると脅されたんだ。 
 そして、どこに行って何をしていたのかは絶対に言うなと言われたので、これ以上は話すことは出来ない」 
 新八は死ぬまで、それ以上の事は話しませんでした。 
      おしまい 
         
         
        
        
      
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