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第 58話
七日まわりの石
長崎県の民話 → 長崎県の情報
長崎県雲仙市小浜町雲仙雲仙に、満明寺(まんみょうじ)というお寺があります。
むかし、ある母親が息子をお坊さんにしようと考えて、息子を満明寺にあずけました。
さて、いざ息子を満明寺にあずけると、母親は息子がとても恋しくなりました。
半年が過ぎ、一年が過ぎると、母親は寝ても覚めても息子の事ばかり考えています。
「息子は元気だろうか。息子は今、何をしているのだろうか。息子に会いたい。息子に会いたい」
しかし息子をあずけている満明寺の修行場は女人禁制で、母親が立ち入る事は出来ません。
「ああ、息子に会いたい。一目で良いから、息子に会いたい」
息子を寺にあずけてから三年目の事、どうしても我慢できなくなった母親は生まれたばかりの赤ん坊を背負うと、女人禁制の境内に入って行ったのです。
「喉が渇いた」
ふと見ると、近くに高さが約五メートルの大きな石があって、そのそばからきれいな水がわき出ているではありませんか。
母親は赤ん坊を背中から下ろすと、夢中でわき水を飲みました。
そのわき水はとても美味しく、飲めば飲むほど体の疲れが取れていきます。
そしてふと横を見ると、そばに座らせたはずの赤ん坊が消えていたのです。
母親はびっくりして、赤ん坊を探しました。
耳をすますと、
「おんぎゃー、おんぎゃー」
と、大石の近くから赤ん坊の泣き声が聞こえてきます。
「どこ! どこにいるの!」
母親は大石の周りをぐるぐる周りながら赤ん坊を探しますが、赤ん坊の声は聞こえるものの赤ん坊の姿は見つかりません。
「どうして? 声は聞こえるのに!」
それから母親は七日七晩、赤ん坊の声が聞こえる大石の周りを探し続けました。
「どうして? 女人禁制の掟を破った罰? 罰なら、私だけを裁けばいい。赤ん坊は、赤ん坊は・・・」
疲れ果てた母親は、そのまま息絶えてしまいました。
やがてこの事を知った人々は大石の上にお地蔵様をまつって、母親と赤ん坊の霊をなぐさめる事にしました。
そしてこの大石は、『七日まわりの石』と呼ばれる様になりました。
おしまい
→ 満明寺
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