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第159話

馬の卵

馬の卵
インドの昔話インドの情報

 むかしむかし、仏さまの教えを広めるインドの偉い先生がいました。
 その先生には、五人の弟子がいます。

 ある日、弟子たちが先生の事を話していました。
「先生は、インドで一番かしこく偉い先生だ。何も知らないおれたちに、優しく色々な事を教えてくれる。先生の弟子になれて、おれたちは幸せ者だ」
「そうだな。しかしおれたちは、その先生に何の恩返しもしていないな」
「うん、どうだろう。みんなでお金を出し合って、馬を一頭、買って差し上げるのは」
「それはいい。先生は一日中歩き回って、とても疲れていらっしゃるからな」
 そこで二人の弟子が、馬を買いに出かけました。

 馬を買いに出かけた二人は、途中で大きな袋を持った男とすれ違いました。
「お坊さまたち、どこへ行かれるのですか?」
「はい。先生の馬を買いに行く途中です」
「ほほう、馬をね」
 この男は、スイカ売りでした。
 男は人の良さそう二人の弟子を見て、ニヤリと笑いました。
「それはちょうどいい。実は、わたしは馬売りなんですよ。でも普通の馬は高くて売れないので、馬のタマゴを売り歩いているのです」
 それを聞いた二人は弟子は、びっくりです。
「馬のタマゴだって?」
「馬は、タマゴで生まれるのですか?」
「もちろんです。中には母親のお腹から生まれる馬もいますが、多くの馬はタマゴから生まれるのです」
  スイカ売りは袋からスイカを取り出して、二人に見せました。
「ごらんなさい。これが馬のタマゴです。立派な物でしょう。馬はタマゴから育てるととても人になつくので、最近はみんな馬をタマゴから育てていますよ」
「そうなんだ。それは知らなかった。・・・でも、わたしたちのお金で買えるだろうか?」
「買えますとも。あなた方には、特別大きなタマゴを売ってさしあげましょう」
 二人の弟子はお金を支払うと、大喜びでスイカを持って帰りました。

「先生、馬のタマゴを買ってきました。いつもお世話になっている先生に、みんなからのプレゼントです」
「馬のタマゴ??」
 弟子たちからスイカをプレゼントされた先生は少しびっくりした様子でしたが、すぐに笑顔で言いました。
「馬のタマゴとは素晴らしい。お前たち、ありがとう」
 先生が喜んでくれたので、弟子たちもうれしいうです。
「しかしこのスイ・・、いや、馬のタマゴは冷やした方がおいし・・、いや、丈夫な子馬が生まれるそうだから、川へ冷やしに行こう。すまないが、川までそれを持ってくれないか」
「はい、かしこまりました」
 弟子たちはスイカをかかえて、先生のあとから歩いていきました。
(さて、どうやって弟子たちに打ち明けようか?)
 先生が前を歩きながらそんな事を考えていると、スイカをかかえていた弟子が木の切り株に足をつまずいて、うっかりスイカを落としてしまったのです。
 スイカはコロコロ転がって、大きな木の根元にぶつかって割れてしまいました。
 そしてその時、木の根元で昼寝をしていたウサギがびっくりして、ピョンピョンとすごい早さでどこかへ行ってしまいました。
「大変だ! タマゴが割れて、中にいた馬の赤ん坊が逃げてしまったぞ!」
 弟子たちは青くなって、先生に謝りました。
「先生、申し訳ございません! 馬のタマゴが割れて、先生の子馬が逃げてしまいました。ピョンピョンと風の様に足の早い白馬だったのに、残念です」
 すると先生は優しい笑顔で、弟子たちに言いました。
「気にする事はない。そんなに早く走る馬では、年寄りのわたしが乗っても振り落とされるだけだ。これはきっと馬に乗らない方が良いと、仏さまが教えて下さっているに違いない」

おしまい

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